人の暮らしを豊かにする「農」のカタチ

若手ラジオパーソナリティの ゆるゆるライフ

いま、農業と若い方たちの関係が大きく変わろうとしています。かつて若者に敬遠される職業であった農業は、夢もやりがいもある職業として認められつつあります。専門の職業とはしないまでも、何らかの形で農業と関わろうとする若者も増えています。そのお一人が松本市の小林新さん。忙しい「本業」の合間をぬって、どのように農業と付き合っているのでしょうか。

「農」に近づくと、幸せに近づく......みたいです
「ここで、ゆる~くやってます」

初秋を迎えたこの時期でも、まだ夏野菜の実りがあります。畑の主役はこの後、大根などに代わります。

農園に到着した時の小林新さんの第一声がこれ。
案内された6メートル四方くらいの区画(これが新さんの農園)は、ある程度管理されてはいるものの、たしかに完璧というほどでもなく、雑草もそこかしこに見られます。
しかし、この「ゆる~さ」こそがポイントで、農業になじみのない方には特に注目してほしい点なのです。

この畑では、ジャガイモ、ナス、ピーマン、大中小のトマト、オクラ、インゲン、ゴーヤ、コリアンダー、大根、サニーレタスなどなど、様々な野菜が次々と育っています。ラジオのパーソナリティという激務の中、新さんはどうやってこれらの農作物を育てているのでしょうか。長年続けてこられたそのモチベーションはどこから来るのでしょうか。
農家の生まれではないので、7年前までは全く農業とは無縁だった新さんの「充実した今」の根っこがここにありました。

トマト

仕事の合間に訪れたビジネスマン

ネギ

ゴーヤ

多少の雑草は問題なし。細かいことは気にせず、のんびり農業を楽しみます。

小道

仲間にアドバイスをもらったり、情報交換し合います。

ナス

オクラ

多忙だからこそ生きてくる「農」とのかかわり

今年のトマトは大玉、中玉、ミニトマトを各2本づつ作りました。何をどれだけ作るのかは自由。好みの野菜から始めるのがコツ。

新さんは農作業について「正直、面倒くさいときもあります」とも言います。「特に夏なんかは草はすぐはびこるし、頻繁に収穫しなくちゃならないし」頑張って行くことも、しばしばだとか。それでも「農園に来れば野菜も待ってるし、おばちゃんたちもいる。ここに来ると元気になって全てリセットされる感覚があるんです」と言います。

いろいろと考えごとがあるときでも、「ああ、やっぱり人間は土を耕して、食べるものを作って生きていくのが原点なんだな」と、すべての基本に戻る感じが、新さんの生活全般によい影響を与えているようです。
それに何といっても「毎日のご飯がおいしくなった」と嬉しそう。
農作業で身体を動かした後でもありますし、自分で作った農作物なんだから何よりもおいしく感じるのは当然だとして、それ以外に気持ちの問題もあるみたいです。

「食べ物がここに来るまでの背景みたいなものが分かると食べ物に対する見方が変わり、食事がおいしくなるんですよ」。土に触れているうちに、それが分かるようになってきたのだという。

人とつながる「農」── お茶の時間も農業の大切なシーン

ひとりもくもくと土を耕し野菜の世話をする、というイメージはここにはありません。
「新さん、これ持ってって食べなよ」「玉ねぎの苗あげるから、そこに植えときな」などと、市民農園の先輩たちから頻繁に声がかかります。そもそも古今東西、集団でワイワイとにぎやかに、交流したり助け合ったりしながらするのが農耕の原点なのかもしれません。

なんと、この市民農園にはお茶を飲みながらおしゃべりする"集会所"まであるのです!畑のほぼ中央に板を敷き、プラスチックコンテナをイス代わりに並べただけの即席Caféでは、市民農園仲間のおばちゃんお手製の漬物やお総菜がズラリ。農作業の合間のこの時間こそ至福のひと時です。
やっぱり農業って楽しいから続けられるんですよね。

本日のお茶受け

旬の野菜がたっぷり入った「野菜の天ぷら」
甘い大人の味わい「イチジクのワイン煮」
お茶の友。自家製の「奈良漬」
思わず箸が進む「ナスの漬物」

あなたもできます ──「播けば、始まる」

自分なりの間合いで野菜と関わっているうちに、農業との心地よい距離感が分かってきました。

雑草が周りに生えていても力強く育つネギ

「農」と関わりをもった事のない人にとって、自分で野菜を栽培するなんてことは想像の外にある事柄かもしれません。
でも、農園で動く新さんの楽しそうな姿や表情は、自分で食べるものを自分で作るという体験をやってみた者でなければ分からないだろうなと思わせるものです。農業との距離を縮めたい方に向けて新さんから贈られたメッセージは「播けば、始まる」でした。

「野菜って結構強いですよ。水や肥料が少しくらい不足していたって育つんですよね。こうしてやらなきゃ、ああしてやらなきゃ、というこちら側のおせっかいをいい意味で裏切りながら強く成長しますね」

もちろん失敗することもあるけれど、「それだって他の野菜がちゃんと育ってくれればそれでいいや」と思えば何でもないと言う。それくらいゆるく伸び伸び構えた方が、「農」と仲良くなれるのかもしれません。

「生産者」と「消費者」の境界線

市民農園で野菜を作っている人は、高齢の方もいれば現役のビジネスマンなど、そのコントラストが楽しい

私たちはつい「生産者」「消費者」といった言葉で両者を分けて考えます。
でも「今、農業に関わる若い人は増えてますよ。消費者であり、生産者でもあるってことですよね。もともと二つの間に境界線なんかなかったのかもしれない」と新さん。実際この市民農園で野菜を作っている皆さんはプロの農家ではないし、消費者でもあるのです。

食べ物や農業に関する様々な問題は皆が「何らかの形でちょっとでも農業に関わることで、少しづつ解決に向かうんじゃないか」というのが新さんの意見で説得力があります。
「プランター一つからでも始められるんですよね」という新さんの言葉を受け止めて、始めてみませんか、今日から。

この市民農園は松本市郊外にあり、市が管理しています。結構広い敷地が碁盤の目のように区切られ、様々な人が、それぞれのスタイルで農作物を育てています。勤めを引退した高齢の方もいれば、休憩時間にネクタイをしたまま手入れに来る現役ビジネスマンもいます。草の1本もなく、作物が整然と並ぶ几帳面な畑もあれば、新さんのようにマイペースで耕作されている畑もあってそのコントラストが面白くもあります。

小林 新さん
●FM長野アナウンサー

こばやし・あらた/1981年長野県上田市生まれ。
「GOOD MORNING RADIO!」(金:7:30-10:49)
「echoes」月曜日(月~木:16:00-18:55)などを担当。
2009年から松本市郊外の市民農園にて約10坪の農園で農作物を作り続けている。
関連ブログ:http://fmnarata.naganoblog.jp/