千曲川の夏の風物詩「つけば」に行ってみませんか

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夕暮れの千曲川

古くは万葉の頃から歌に詠まれた清流千曲川。この千曲川の初夏の風物詩に「つけば」があります。初夏から秋(7月下旬からは鮎)にかけ、千曲川中流の佐久市から上田市、坂城町、千曲市、長野市松代あたりの千曲川河川敷に期間限定で登場する「つけば小屋」が、その季節を告げています。
千曲川右岸、坂城町の坂城大橋下にある「魚とし つけば鮎小屋」を訪ねました。

伝統の投網漁法で捕獲を継承

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「つけば小屋」とは千曲川でとれる淡水魚のウグイ(別名「ハヤ」「アカウオ」)を、その場で調理して食べさせてくれる季節限定の店舗のこと。魚としさんは、この辺りでは江戸の頃から続くとされる伝統漁法、投網でとったウグイを提供しています。
現在、更埴漁業協同組合監事でもある後藤敏一さん(70歳)と、息子さんで3代目の正一さん(37歳)が、連日、網を投げては漁を続け、目の前の川で捕った魚を提供しています。

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投網の様子

「つけば」とは、川底の砂利にウグイが産卵する習性を利用して人工的につくる産卵場所のことで、「たねつけば」が略されたものといわれています。
「産卵期になると、卵のいる雌1匹に対して、雄が20匹近くも追って来るんですよ」と正一さん。その瞬間をとらえ、まさしく一網打尽に捕まえるのが投網の漁法なのですが、その仕掛けを作るまでがつけば小屋の腕の見せ所となります。
「自らとった魚だけを提供するのがこだわり」という魚としさんでは、本格的な漁が始まる4月1日から20日頃までが勝負。

きれいな「つけば」のための苦労も

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朱色の線は産卵期に現れる婚姻色

「ウグイはきれいな砂利がないと産卵しませんから、卵を産みやすい環境をつくることから始まります」と正一さん。正一さんは創業者でもある祖父と父について育ち、父と小学校1年から千曲川で投網と船頭をしているという、この道既に31年の"ベテラン"。

毎年、春先になると川の流れを読み、「マヤ」のイメージを思い描きます。「マヤ」は本流を上ってくるウグイを引き寄せるために大量の石で流れを操り、投網を投げる舞台を川の中に造ります。大人の胸ほどの水深があるプールのような場所にして、人工的な産卵場へ導く方法です。ここで効率的に捕獲できるよう「投網を持って立った時、流れの中心となる流心が、舞台にちょうど当たることも重要です。でもこれがなかなか難しいんです」と正一さん。

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砂利は少しずつ丁寧に洗って乾燥させる

マヤには、きれいな産卵場があることが条件のひとつとなるため、川床の砂利は4日に1度の割合で引き揚げ、石に付着したコケなどを洗っては戻すという作業を繰り返します。
その合間を縫うように、産卵期間の4月下旬から6月までは、天候不良の日以外は毎日3時間おきに投網をし、新たにきれいな砂利を投入します(敏一さんは社交ダンスの先生、正一さんは税理士事務所に勤務しているのでシーズン中は多忙を極めます)。
1回の投網で100匹近くとれることもあれば、数匹というこことも。「魚がとれた時は、やはりうれしいですね。じいちゃんがやってきたことだから、これからも続けていきたい」と伝統漁法を継承する正一さん。
こうして期間中に約5000~6000匹を捕獲し、つけば小屋で提供しています。

つけばも高齢化が進み、後継者育成が課題に

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左から後藤正一さん、後藤富貴栄さん・敏一さん夫妻、お孫さん

「魚とし」さんは3代目の正一さんが後継者として頼もしく活動していますが、ここでも高齢化が進み、つけばも衰退の一途をたどっているのが現状。当Webマガジン「長野県のおいしい食べ方」で2007年に紹介した時、更埴漁業協同組合に加盟していた10店舗のうち現在も営業しているのは4店のみ。後継者を積極的に育成することも、漁業組合の課題のひとつとなっています。
「つけばがあるから、ウグイが産卵し、魚が絶えないんです。つけばがなくなると、ウグイもいなくなってしまいます」と敏一さん。
こうした危機感を踏まえ魚としさんでは、子どもたちを対象に「さかきふれあい大学 川の学校」を開き、仕掛けを作って魚をとったり、川の清掃を行ったりするなど、川への理解を深めています。今年2016年は7月2日を予定しています。

川の流れを聞きながら、季節を味わって

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さて、つけば小屋のこと。魚としさんでは竹串に刺して炭火で焼く昔ながらの方法で提供しています。赤魚料理コース(2800円~)はシンプルな塩焼きと、自家製の山椒味噌で食べる田楽みそ焼きのほか、ウグイや季節の野菜の天ぷらなども付いています。写真が1人前(!)です。川魚特有のクセは少ないので、香ばしい焼きたてをぜひ味わってみてください。予約が必要です。
ウグイの提供は6月中旬頃まで。7月20日からは鮎小屋となります。

5月28日から6月12日は、さかき千曲川バラ公園で「第11回バラまつり」が開催されます。季節の風物詩を楽しみに出かけてみてはいかがでしょうか。

魚とし つけば鮎小屋

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