花井さんの農事録
[花井さんの農事録]

須坂の4つの季節を巡る農事録 




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庭に1本だけ残した花を愛でるための桃の木


南から暖かい空気が
運ばれるようになり、
ひんやりとした北風で
撫で付けられることは
もう少なくなりました。

日頃から季節の目安としている
夜空のオリオン座も
すっかり西へと移動してしまい、
季節はそのまた次の季節へと、
たとえ人が
どれだけ悲しみを抱えていても、
ただただ流れて行くのだと
気付かされるこの頃です。


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ウスの中ではアスパラガスが旬を迎えていますが、収穫と荷造りの合間をぬって桃の『摘蕾(てきらい)』作業をしています。摘蕾とは読んで字のごとく、蕾(つぼみ)を摘み取ることです。蕾の数や位置などを考慮しながら、指で枝をなぞるようにポロポロと不要な蕾を落として行きます。蕾が膨らみかけた頃からはじめます。

アスパラや果樹、そして名の知らない草も萌えだす時「あぁ今年もこの時が迎えられて良かった」と思います。春になれば芽が動き出すことを誰もが知っていますが、そこに至るまでの確証はありません。なので、生命力溢れる春という季節は、農家にとって実は収穫期以上に悦ばしい季節ではないかと思います。

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っと迎えたこの春という季節に、作付けの延期を強いられている農家がたくさんあります。農業には常に何かを行うにあたっての「適切な時期」というものがあって、それを逃せば後々の作物の出来に影響を与えることになります。

 

農家にとって本来、作付けや作業に『延期』はありえません。基本的に農作業は太陽が昇っている間だけですので、作業が滞ったからといって徹夜をすれば間に合うというものでもありません。適切な時期にその作物に関われないという状況は、非常に苦しいことです。

そんな苦難に対し、人間の手で出来ることは限られていますが、農家なりにこの先の暮らしの在り方を手探りではじめることはできるのかもしれません。いつの日か、心から春を悦べる時がたくさんの人に訪れるために。そして、もっと先の世代のために尊い「地力」というものを残せるように。

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れから桃、プルーン、りんごと開花が続き、慌ただしい授粉作業がはじまる予定です。この期間は果樹農家にとって飽きるほどに花・花・花の日々なので、お花見といった風流な気分になることは残念ながら少ないです。ここ須坂市には『臥竜公園』という桜の名所もあるのですが、気分次第で行ったり行かなかったり...。

 

ただ、庭にある1本の桃の樹だけは、今年も摘蕾をせずに花を愛でてあげたいと思います。来年咲くことも、その花を私が見ることも、いつだって確証はないのですから。

それでは、今回はこのへんで。


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この記事を書いた人

花井かおりさん

花井かおりさんは長野県北部の須坂市で、ご主人とその両親との4人で農園を営みます。就農したのは6年前。もも、プルーン、りんご、ぶどう、そしてアスパラガスといった果樹や野菜の多品目栽培です。「地に足をつけた暮らし」をいとおしみ、母屋のそばに建つ小さな家とともに「生活の延長線上に仕事がある生き方」を楽しみつつ、農とそれにかかわる自己を見つめるかおりさん。彼女の4つの季節を巡る農事録です。

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