大樹の農事録
[大樹の農事録]

大樹の、安曇野うまい米づくり農事録 第13回

北アルプスをのぞむ安曇野市は、1等米比率日本トップクラスの長野県を支える米どころ。25歳でお米農家を継いだ安田大樹さんは、おいしいお米を作り続けることが「ふるさと安曇野の景観を守り、地域を楽しくしていくことにつながる」と考えました。

お久しぶりでございます。
緊急事態宣言の発令中、皆様はどのようにお過ごしでしたか。

安田さん農事録

 

新型コロナウイルスは私たちの生活に大きな変化をもたらしました。悪いことが9割ですが、1割くらいは新たな気付きや良い変化があったのではないでしょうか。

私としては一番心に残ったのが、ウイルスと同じように「憎しみも感謝も伝染する」ということです。「自分も我慢してるんだからお前も我慢しろよ!」「県外者はこっちに来るな!」という負の感情を与えられた人は、負の感情を返したくなりますよね。しかし、「誰かのために今は自分にできることをやろう」という気持ちは、その優しさに触れた人にも影響し、良いエネルギーの広がりになります。

緊急事態宣言が解除され、やっとマスクも店頭で見かけられるようになりました。少しずつ回復傾向にある日本ですが、まだまだ油断はできません。今は"冷静に"第二派に備える期間だと思います。
「新たな生活様式」と表されるように、こういうことがきっかけで少しずつ日常も変化していくのでしょうね。いい変化はそのままに、早く「3密」など気にせずに出歩ける日常を取り戻したいものです。

 

米農家への影響は

さて、農作業の方はといいますと、米に関してはほぼ影響は感じられませんでした。それは我が家がほとんどJA出荷で、昨年の内にほぼ出荷を終えていたということが影響の少なかった大きな要因でしょう。影響が出るとすれば今年の出荷分からですね。しかし、飲食店向けなど直販メインの農家さんは、かなり激しい打撃があったことでしょう。そして、飲食観光業の方々は本当に厳しい状況だと思います。

外出自粛要請が出ても、「農業は接触を避けてなるべく普段通りの生産活動を」という方針でしたので、イベント事は全て中止になりましたが、生産活動にはいつも以上に時間をかけられたので仕事はだいぶ捗りました。
「安曇野田んぼアート」も「農家民泊」も中止。人との繋がりを断とうと思えば家族でほぼ完結できてしまう仕事ですが、やはり農業の価値は、農産物の供給だけじゃなく、生産の途中にも沢山あります。また、その中で生まれる人とのつながりの中に、新しい発見や発展があるものです。

このような経済や生命に関わる大きな出来事があると、必ずと言っていいほど農業や田舎の暮らしに注目が集まります。今回の場合は特にそんな感じ。テレワークも定着し、業種によってはオフィスを持たなくても会社が成り立つ時代。地方暮らしを考える人は増えているようです。私としては移住者大歓迎! ぜひ多くの人に長野で最高の田舎暮らしを実現していただき、移住者の皆さんも田舎を盛り上げていって欲しいです。

 

怒涛の4・5・6月

土地利用型農家としては、そもそも遊びに行くという選択肢がない怒涛の4~6月。安曇野の景色もこの2カ月で一気に変わります。今回は写真メインのダイジェストでお送りします。

安田さん農事録

 

4月。遅霜が降りた草花と水が張られた水田を朝日がキラキラと照らします。忙しくも美しいシーズンのスタートです!

安田さん農事録

 

田植え準備。トラクターのキャビンからは、まだ残雪を被る北アルプス。畦草は土の下で力いっぱい背伸びをする準備をしています。

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田植え前の早朝。日を追うごとに安曇野に水鏡が増えていきます。そろそろ常念岳の雪形「常念坊」の輪郭が見え始めます。

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苗も発芽良好。安曇野を彩る絵具たちです。

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5月。掛け軸にしたい風景。水田が若草色のストライプになると同時に、畦草も一斉に顔を出します。こうなるとすっかり安曇野も春の装い。この時期が一番安曇野らしいかもしれません。

安田さん農事録

 

安田さん農事録

 

大きな公園も立ち入り禁止だった頃。子供たちは毎日外で遊んでいました。こういう時に気軽に子供が外で遊べる環境があるというのが地方暮らしの魅力でしょう。親としても本当に恵まれた環境に住んでいるなと思いました。心にもゆとりが生まれます。

安田さん農事録

 

昨年の10月に播いた大麦も開花の時期。稲の花ことばは「神聖」でしたね。大麦の花言葉は「繁栄」「希望」「豊作」です。なんと縁起のいい作物なのでしょう。
中島みゆきの「麦の唄」を口ずさみながら麦花粉にくしゃみを一つ。
気兼ねなくくしゃみ一つできる環境すらありがたいと感じた令和2年。

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我が家へ続く道路も各屋の屋敷林が色付き心を和ませてくれます。田園風景と同じくらい屋敷林も安曇野の大きな景観資源です。

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6月。屋敷林をバックに黄金色に輝く大麦。『風の谷のナウシカ』を連想させます。

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梅雨入り前に滑り込みセーフで刈取りを終了。昨年壊れたコンバインとは違い、キャビン付きなのでエアコン効くしラジオ聞けるし、埃っぽくなくて凄く楽でした♪

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今年はヒバリの巣を何度も壊してしまいました。まだ飛べない雛を畦まで運んであげると、上空で心配そうに飛び回る親鳥がすぐに降りてきて寄り添っていました。
大麦畑の上を飛び回るヒバリは正に6月! って感じの風景です。自分が花札をデザインするなら6月は間違いなく麦畑! ヒバリ入りは10点札ですね。

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麦刈り後すぐに大豆を播きます。4日もすれば大豆は種が広がって葉っぱになります。今年は梅雨らしい梅雨でいくつか播種できていない圃場があります。湿害が出なければいいのですが。。。

安田さん農事録

 

安田さん農事録

 

稲は今こんな感じ。横から見ると水面が見えなくなり、一面濃い緑が広がっています。北アルプスの残雪も無くなり、雨に濡れた緑が美しい季節です。人工物以外みんな緑といってもいいくらい緑!
一言で「緑」といっても、みんな違って調和している風景が不思議。これを絵の具で描けと言われたら凄く難しい。

そんなこんなで怒涛の3か月を乗り越え、稲も子供もすくすくと成長しています。さて、この先どんな試練が待ち構えているのやら。まぁ、どんなことがあっても最悪そこら中に食べられる草が沢山生えているし、川の水も飲めるくらい綺麗だし、何とかなるでしょう。
極端ですが、そう思えるってだけで少し気が楽になるものです。
生命活動の根幹を担う農業に携わるものとして、今年は特に慎重に収穫までの管理をしなければ、と心に誓う今日この頃なのでした。

 

テイクアウトでは持って帰れないもの

各業種で様々な影響があるかと思いますが、本当に飲食、観光業の方々は辛いと思います。通常通りの営業ができない中でテイクアウトに取り組む店も増えました。私も地元のお店に行きたくても行けないという中、テイクアウトを積極的に使うようになりました。やはりプロの味。お酒のつまみにも最高です。

でも、やっぱり持ち帰るとお店で食べるよりは一味落ちるのは否めません。外食というのは店の雰囲気であるとか、食器やグラス、会話や雑音も含めて美味しいし、楽しいんだなぁ、と再確認した次第です。

そもそも食材のことを日本では山の「幸」、海の「幸」といいますよね。美味しいものを食べるという行為=「幸せ」なのです。日々の暮らしの中で採れた食材を何倍にも美味しくして付加価値マシマシで提供して下さる飲食店や観光施設の皆様は、言わば幸せ創造人です。ここが元気にならないと日本から幸せが消えていってしまいます。 早くコロナが終息し、多くの人が日本の食で幸せになれる日が来ることを願います。

あぁ、今年度の目標は「記事を短く」なのに、結局長くなってしまったので言いたいことはまた来月。
梅雨が明ければ夏本番ですね!
海で浜焼きとビールを飲みたい!!!

この記事を書いた人

安田大樹さん

北アルプスをのぞむ安曇野市は、1等米比率日本トップクラスの長野県を支える米どころ。25歳でお米農家を継いだ安田大樹さんは、おいしいお米を作り続けることが「ふるさと安曇野の景観を守り、地域を楽しくしていくことにつながる」と考えました。

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