ひとたびハウスに入ると、一面紫色の風景が飛び込んできました。白色や茎の緑がところどころに見え、3つの色が描く文様は、まるで精巧に織られたペルシャ絨毯のよう。枝先にぎゅっとまとまって紫色と白色の花が咲くこの花は、スターチス。フレッシュな花束はもちろん、ドライフラワーの花材としても大活躍します。
やってきたのは、県南東部の原村でスターチスを栽培している行田一彦さんのハウス。今年2020年は、6月17日頃から本格的に出荷がスタートし、これから最盛期を迎えるところです。
八ヶ岳高原に位置する原村は標高900～1,300ｍに位置し、夏は湿気が少なく冷涼、冬は非常に寒冷の気候。晴天率が高く、十分な日照時間を確保できる土地柄から、色鮮やかで長持ちする品質の高い花が育ち、昔からスターチスやアルストロメリア、アネモネを中心とした花き栽培が盛んです。
枝先に「ブラシ」と呼ばれる、小さな花群をつけるスターチスですが、実は、白色の花がスターチスの花弁。紫色はというと、花弁の外側の萼（がく）と呼ばれる部分なのです。
左が「スターチス・シュニアータ」、右が「サマーチェリー」
スターチスには一年生の「スターチス・シュニアータ」と、宿根性スターチス（長野県諏訪地方では「サマーチェリー」とも呼ぶびます）の2種類に大別できます。どちらも穂先に小さな花をつける点ではどちらも同じ種類に見えますが、花の大きさや茎にヒダがあるかないか、といった違いがあります。
行田さんが栽培する一年生スターチスは、3月上旬に苗植え、6月上旬に収穫が始まります。一番花を収穫すると、二番花、三番花...と茎が伸び、土が凍る11月上旬頃まで収穫が続きます。収穫が終わると株を抜き、耕し、肥料を撒いて土づくりをし、来年の春の苗植えに備えます。
二番花。小さいときからブラシ状
スターチスにはいろいろな種類、色がありますが、よく目にするのは紫色のスターチスではないでしょうか。紫色のスターチスは、主に仏花や盆花として重宝されています。紫色の花の種類が少ない時期にも、年間を通して出荷されているので人気があります。行田さんも紫系の「ノーブルヴィオレッタ」や「アラビアンブルー」をはじめ、10種類ほどのスターチスを栽培しています。
「毎朝2時に起きて、3時から作業を始めるよ」と行田さんの起床時間を聞いてびっくりの編集部員。日が昇る前の涼しい時間帯に花を切ることによって、茎がシャキッとし鮮度が保てるのです。花を切ったあとは新鮮なうちに、鮮度を保つための前処理剤を入れた水に2～4時間漬けて水揚げを行い、その後水から出して涼しいところで乾燥させ湿気を取り、パリッとさせた状態で箱詰めを行います。
スターチス栽培においてこだわっている点を聞いてみると、「水やりかな。（水を）あげすぎると軸がやわらかくなってしまうし、乾燥させてもいけないので、苗付近の土を触って水をあげるタイミングを確認してこまめにやっているよ」と行田さん。細やかな水管理をすることが良質なスターチスを育てる鍵です。まだ真っ暗な夜中から作業にあたるのも、前処理剤入りの水揚げを行うのも、市場を経て消費者の方へ届くまでの間、鮮度を保ち、長く楽しんでもらうための農家さんの努力なのです。
スターチスはドライフラワーに向いているお花です。長く楽しむためにはドライフラワーにするのがオススメです。数本束ねて逆さに吊るすハンギング法（自然乾燥）で色あせることなく、きれいな仕上がりになります（編集部員も実践済みです！）。乾燥したらリースやハーバリウムなどにしてもいいですね。
生花で楽しむ場合は、汚れのない花瓶を使うこと、お水を毎日替えたり、抗菌剤や殺菌剤などを1、2滴加えるなど、花瓶の水を清潔に保つことが大切です。また、こまめに茎を切って水揚げするなど、切り口を新しくすることも重要です。
仏花や、添え花として重宝されることの多いスターチスですが、「色ものもたくさんつくっていきたいね。仏花だけでなく、日常でも飾ってほしい」と行田さん。信州諏訪のスターチスは6月中旬頃から、東京や大阪など首都圏を中心に出荷されます。
こちらは
の記事です。
農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。
ジャスミン
関連記事
前のページ
