南信州泰阜村 ゆず姫のチョコレート物語

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愛知と静岡の県境に近く、長野県南部に位置する下伊那郡泰阜(やすおか)村は、天竜川の河畔320メートルから役場の東にある分外山山麓の770メートルまでと、標高差が450メートルもあり、その多くを山林が占める人口1800人ほどの静かな村です。
周囲が紅葉で鮮やかな色彩を放つ頃、村に豊かな実りをもたらしてくれるのが、この村特産の柚子。その柚子を使って、住民により村内で手作りされているのが、欧州・ベルギー製チョコレートとの合体による泰阜村発「柚子チョコレート」です。


柚子特有の香りとほろ苦さを
上質なチョコレートで味わう

柚子を砂糖で煮て漬け込んだ「柚子ピール」をチョコレートで薄くコーティングした柚子チョコレート。それは口に入れた途端、パリパリとチョコレートが音を立ててはかなく崩れ、その後すぐに訪れるのが、特有の香りとほろ苦さを残しながらも食べやすい、さっぱりとした甘さになった柚子。そんな柚子を噛むたびに、チョコレートの芳しい香りと美味しさが溶け合って、両方の魅力を同時に楽しむことができ、さらに、一片でもかなりのインパクトと贅沢感を味わえるチョコレートなのです。

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ビターチョコレートのコーティング(手前)と、ミルクチョコレートにココアパウダーを振り掛けてほろ苦さを効かせたもの(奥)

20130130yuzu03.jpg「柚子は植えた人が骨になってからでないと実がならない」と言う人があるほど、実を付けるのに時間がかかります。この村では、そんな柚子の木が昔からある家が多かったそうですが、観賞用とされるのがほとんどで、採って食べることはあまりなかったのだとか。なぜなら柚子は、酸味が強く、皮は苦くて硬いときていますから――。

未活用の村の資源を使って
地域のために新しいことを

20130130yuzu04.jpg「柚子の実が黄色く色付いてくると、嬉しくなるの」と話すのは、この柚子チョコレートを世に誕生させた、株式会社「ゆず姫」代表の中島スギ子さん。
「この村を象徴する、家々に実る見事な柚子を使って何か作れないかしら?」と、思いあぐねいていたところ、ふと、オレンジを使ったチョコレートがヒントとなって、そこから試行錯誤の長い年月が費やされていくことになるのでした。そして、「柚子を使って何か一緒に作りましょう!」という中島さんの呼びかけに、賛同の手を挙げた当時のメンバーによって、現在村の女性6名が、柚子の皮を煮詰め、一切れひと切れ均一な大きさに切って漬け込むといった工程を、一つひとつ丁寧に手作業することで(ただし、チョコレートでコーティングする工程は除く)、柚子チョコレートづくりは行われているのです。

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「ちょっと味見してみる?」と手の上に置いてもらった柚子ピールを恐る恐る噛み締めてみれば、思わず口元も弛む美味しさ。 
「でもね、この状態に辿り着くまでに4年かかったのよ」と中島さんは静かに話し始めました。

村の人が関わり協力し
「村の宝」に磨きがかかる

柚子チョコレート作りでまず始めに行なったのは、柚子部会の立ち上げだったそうです。というのも、柚子は、村では収穫の対象とされていなかったため、様々な試行錯誤が必要でした。
たとえば、柚子は上へ上へと伸びていく性質の植物で、高いところにも実をつけるのですが、やっとの思いで村の人たちが協力して収穫しても、樹には刺があり、風が吹くことでその刺によって傷付いた実が多くなってしまうのです。そのため、見た目はもちろんのこと食感さえも悪くさせ、柚子の皮を味わうこのチョコレートにとってはせっかくの柚子も、無駄になってしまう部分が多かったのだそうです。
そこで、見た目も、そして食感も良い柚子を作ってもらうため、講習会を開き、剪定をはじめとする栽培方法を徹底して行ってもらおうと取り組んだのです。

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さらに、もっとも重要視される味の面では、加える甘味は砂糖だけでありながら、長期間やわらかな歯応えが楽しめて風味良く、見ても美しい柚子ピールを目指しました。また、コーティングするチョコレートは、最高級のひとつとされるベルギー製のチョコレートの中から柚子ピールに合う何点かを選び出し、何度も試食、そして試作を繰り返しながら、2008年11月、泰阜村発信の柚子チョコレートを作り上げたのでした。
そんな努力が実を結び、第18回「信州の味コンクール」では見事、優秀賞に輝くまでの製品になったのです。

「泰阜村の魅力をもっと多くの人に知ってもらいたい」
「県内はもちろん、県外からも年々リピーターが増えているんです」と、穏やかな表情を浮かべたかと思ったら、「とはいってもこのチョコレート、まだ途中なんです」と瞬く間に表情を引き締め、真っ直ぐな眼差しを見せた中島さん。
チョコレートの融けやすさから、今のところ柚子チョコレートの販売は11月から4月末頃までの秋冬限定。そこで、もっと長い期間楽しんでもらうための研究が、今も引き続き行われているのだそうです。

そして、現在では柚子チョコレートのほか、通年商品としては天然果汁入りハードタイプのゼリー「山の実の天使の滴」(「第20回信州の味コン」で「最優秀賞(県知事賞)」受賞)や、村内産柚子の砂糖漬けに蜂蜜を合わせたものをお湯に溶かして飲む「ゆずピールてぃー」などの製造も行われていて、泰阜村の魅力をもっと多くの人に知ってもらいたいという中島さんの思いは、益々大きくて強いものになっているのです。

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「洋菓子でもなく、和菓子でもない」と、その魅力を一言で語る中島さんらが作る柚子チョコレートは、インターネットでの注文のほか、飯田市内の「りんごの里農産物直売所」などでも販売されています。

20130130yuzu08.jpgバレンタインデーを控えたこの時期、巷にあふれる華やかなチョコレートとは、ひと味違ったストーリーを持つ柚子チョコレートはいかがでしょうか。口にしたその瞬間、このチョコレートだけが持つ和やかな幸福感にきっと癒されることでしょう。



◇株式会社「ゆず姫」
〒399−1801 下伊那郡泰阜村7520
電話・FAX:0260−25−2200

◇「りんごの里農産物直売所
〒395−0152 飯田市育良町1‐2‐1
(中央自動車道飯田インター前)
電話:0265−28−2770
FAX:0265−28−2780

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