八百万の神々が湯に入りにくる下栗の霜月祭

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南アルプスの懐に抱かれた、日本3大秘境のひとつとして知られる遠山郷。飯田市上村(かみむら)地区と南信濃地区にまたがるこの山里には、古くから「霜月祭」という湯立て祭が伝承されてきました。

日が短いため生命力が弱まるといわれる旧暦の霜月(12月)に、諸国の神々を招待して湯を献じ、自らも湯を浴びて身を清めることで、生命の再生や天下泰平を願う霜月祭は、約800年の伝統を持つといわれ、国の重要無形民俗文化財に指定されています。
現在は9つの神社で行われており、「日本のチロル」と呼ばれる下栗(しもぐり)の里では毎年12月13日に行われています。2012年の今年も、1年に1度だけ神々と人間が出会う、祭りの日がやってきました。

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約800年前から伝わる貴重な民俗文化財
霜月祭は、1979年(昭和54年)に国の重要無形民俗文化財に指定されました。約800年前に遠山郷から宮廷に仕えていた人たちが、当時宮中で行われていた湯立ての舞を伝えたのがその起源とされ、現在でもほぼ原形のまま伝承されているといいます。そのため祭事は朝から翌日の明け方まで夜通し行われるのが特徴です。
様々な面(おもて)が登場して舞う場面や、素手で湯を払う湯切りが有名ですが、面の数や種類、祭事の方法などは神社によって異なります。

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今回訪れたのは飯田市上村下栗地区。霜月祭が行われる神社、下栗拾五社大明神(写真で煙が出ているところ)では、12日の宵祭から13日の本祭の午前中にかけて、諸国の神々を招待するために様々な祭事の準備が行われます。社殿の中ではお祓いや浄めの神楽がうたわれ、湯立てに使う2つの大きな湯釜が火床(ホド)に据え付けられ、薪の火で湯が沸かされます。

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これらの祭事のなかで般若心経が唱えられる点や、禰宜(ねぎ・神職のこと)が数珠を持って祝詞を唱えたり神楽をうたったりする点にも注目。神仏混淆の祭であることがはっきりとわかります。

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湯釜の上に神々が集まる
正午頃、諸国の神々を迎える神楽がうたわれると、集まってきた神々は湯釜の上三寸(約9cm)の湯気の中にとどまるとされています。その後、諸国の神々への神事が夜10時頃まで続きます。湯立てや様々な舞が社殿内で行われるほか、神社や禰宜の家を釜の湯で清めるといった神事も行われます。
※余談ですが、2001年に大ヒットしたスタジオジブリのアニメ映画『千と千尋の神隠し』の中で、八百万の神々が湯に入りにやってくる、というアイディアは、宮崎駿監督がテレビで霜月祭を見て着想を得たそうです。

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厳かな祭事ですが、ピリッとした雰囲気はあまりなく、待ち時間があったり、氏子の皆さんが一般の見物客に温かく接してくれたりと、素朴な雰囲気が魅力的。神秘的な祭を見ようと全国各地から集まった人たちで神殿内はごった返していましたが、見物客同士の交流もあり、ゆっくりと素敵な時間が過ぎていきます。(*´∇`*)

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舞手の登場で祭りはクライマックスに
そんな霜月祭も、神返しの神楽で諸国の神々にお帰りいただいた後が、実はクライマックス。地元の神々だけとなった神社は、緊張が解けて気軽な雰囲気となったという意味でしょうか、神社に大切に保管されているたくさんの神面を着けた舞手が登場し、太鼓と笛に合わせて舞を披露します。

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日天(火の王)、月天(水の王)による湯切りは皆が楽しみにしている祭事のひとつ。煮えたぎる釜の湯を素手で払い、周囲に飛ばします。この湯を浴びると身が清められるといわれているので、釜の真横は人気の見物場所となっています。編集部員も少し浴びて身が清められましたが、飛んでくる湯しぶきはなかなかの熱さでしたよ。

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神殿内が最も盛り上がるのが、四面(よおもて)の面が登場したときでしょう。4人の若者が面を被って登場し、火床の4辺にそれぞれ陣取ると、威勢の良い「ヨーッセー!ヨーッセー!」という囃子に合わせて飛び跳ね、四隅にいる人に向かって体当たりをかますのです!!w(゜O゜)w観光客であっても、四隅にいる人は四面の体当たりを受け止めなければなりません。最高潮に達している会場の雰囲気と合わせて、受け止め役として参加すれば、楽しく盛り上がること間違いなしです!

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「年に一度の楽しい祭りだから続けたい」
四面や神面の前に行われる襷の舞の舞い手、太鼓や笛の奏者は、祭りのために帰省している村出身の若者や、村に縁のある若者が務めており、「ここ数年は若い人達が頑張ってくれていて嬉しい」と、村の人は話します。人口が流出している山間の集落で伝承されてきた独自の文化は、全国的に存続の危機にあります。霜月祭を受け継いでいる人々からは、「受け継がれてきたものだから守らなければ」というよりは、「年に一度の楽しい祭りだから続けたい」という意識が感じられたように思います。

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下栗の霜月祭が終わったのは朝の4時頃。見物客の多くは祭りの雰囲気に魅了されていたのか、最後まで見続けていました。それだけ不思議な力がある祭りなのでしょう。
一眠りした後、翌朝に臨んだ下栗の集落や南アルプスの聖岳は、とても神々しく感じられました。

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霜月祭は来年の12月までありませんが、1月27日に道の駅遠山郷内「かぐらの湯」で、解説を交えながらの特別公演が行われるとのこと。興味のある方は足を運んでみてはいかがでしょうか。

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◇関連リンク
遠山郷観光協会
長野県のおいしい食べ方『南信州・天空の里で育つ「下栗いも」』


・拾五社大明神 地図

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