塩水の湧泉から採取される大鹿村の山塩の謎

初夏の美しい村でわたしたちを待っていたもの 中編

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長野県下伊那郡大鹿村(おおしかむら)。人々が日本列島の原風景と呼べるものと出会うところ。そこは長野県のみならず、日本を代表する風景として、季節ごとに表情を豊にかえる、世界に誇れる村。大自然の真ん中にある大鹿村の初夏の旬の魅力を伝える3回連続の第2回目は、由緒正しき「山塩(やまじお)」のお話しです。

なぜ神秘の塩といわれるのか
塩水の温泉は大鹿村の歴史とは切り離せません。その理由が「山塩(やまじお)」。村の北側に位置する鹿塩(かしお)地区は、地名の通り鹿のいる里、塩の湧く里を意味します。太古の昔、信濃の国を開拓した建御名方命(たてみなかたのみこと)が狩りをしたとき、鹿など動物が集まる水場を調べると、そこは「塩泉(しおせん)」であったと、伝えられています。

大鹿村は、山奥です。海から遠く離れた標高750メートルの山の上。ここで取られる山塩は、粗塩でミネラル分が多く含まれ、塩辛さがきつくなく、ほんのり甘い感じすらします。では、なぜ村に塩水が湧き出るのでしょうか…、実は、西暦2009年に入ってもその理由は解明していません。これは、神秘の塩なのです。

yamasio3.jpg時を越える大鹿の塩
歴史をひも解くと、西暦800年代にまでさかのぼります。当時、上下諏訪社の領地として管理され、塩を産出するこの地には、多くの牧場が作られ、貴重な塩分が与えられた良馬が育ち、諏訪社の祭りや農耕に重宝されていたと伝えられています。草食動物は、尿と一緒にカリウムと多量のナトリウムが出ていくため、補うためにどうしても「塩」が必要になります。

南北朝地時代になると、後醍醐天皇の第八皇子「宗良(むねなが)親王」が大鹿村に住み、親王を護衛する城が作られました。その中のひとつ、「駿木(するぎ)城」では、護衛と同時に、この塩を守ることも重要な任務でした。この駿木城の遺跡からは、塩を作っていた製塩の様子を伝えるものも見つかっています。

江戸時代になると、塩を「塩壷(しおつぼ)」で製塩するようになります。塩は、庶民にとっても不可欠な存在であり、貴重な塩分は煮物や漬物、味噌や醤油の製造に必要なものとして定着していました。

明治時代では、明治8年に旧徳島藩士である黒部鉄次郎という人物を中心に岩塩を見つけようと大きな夢を抱いた人々が鹿塩地区へやってきます。後に「白い鉱山師(やまし)」と呼ばれる彼らは、塩水を煮詰めるなどの製塩事業をしながら、山を掘り岩塩発見に執念を燃やしますが、結局発見できませんでした。

siosen.jpgしかし、その熱意は地域にも伝わり、大鹿村へ大きな影響を与えました。明治31年に起きた災害により塩製施設が壊れますが、後継者となった平瀬理太郎(湯元山塩館主)などの協力により施設を再建し、明治33年には、大正天皇のご成婚に際して真っ白く輝く山塩を献上しました。

その後、明治41年には、当時の文部省・大蔵省・農商務省の合同調査が行なわれ、岩塩の存在が認められない、という報告が提出されました。また、明治43年には塩業改正により製塩事業の禁止という方針が決められました。

現在では、平成9年に新たな塩事業法が施行され、製造方法によって届出等を行い許可が下りると製造・販売ができるようになっています。

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貴重で特別な神秘の塩です
写真でも紹介しているように、塩作りを見せてくれているのは、湯元山塩館の4代目で、大鹿観光協会会長の平瀬長安(ひらせながやす)さんです。

「ここ鹿塩温泉は、海水とほぼ同じ塩分を含んでいます。特徴は、肌触りが滑らかで、保温効果が高いこと」と教えてくれました。そして塩作りには「源泉地下11メートルからくみ上げています。ステンレス製の薪釜で、1日半ほどゆっくり煮詰めていきます。温度が上がり過ぎないように気を配ります」と続けます。手作りなので、作れる量は、100リットルの塩泉から30グラムほど。「極めの細かな、塩は真っ白。ミネラル分が豊富な塩は、口当たりのやわらかい上品な仕上がりになり、焼き物やお料理、てんぷらなどをつけて食べると、味をグッと引き立てます」笑顔で教えてくれました。

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できたて(!?)の塩を、少しいただくと、きつい塩味はせず、塩の味の中にもほのかに甘さを感じる、今までに体験したことのない、感覚です。平瀬会長は「量は取れない貴重な塩だけに、特別な塩です。また、塩には、大鹿村の歴史が詰まっています。多くの人に、この地で、味わってもらいたいですね」と笑顔で教えてくれました。

山塩館さんでは、同館で作った塩は売っていませんが、大鹿村の「塩の里特産品直売所」で同様の製法でつくられた山塩が売られています。山深いアルプスの麓に、なぜ海水のような塩泉が湧くのか、謎に包まれています。ぜひ大鹿村においでの際は、そんな、不思議に満ちた「山塩」をご賞味ください。


アクセス:

塩の里特産品直売所
長野県下伊那郡大鹿村大字鹿塩364−1
電話&FAX:0265−39−2282
営業時間 9:00〜17:00
塩の里特産品直売所ウェブサイト
定休日 毎週火曜日
 「山塩」内容量50g入り=525円
        25g入り=270円

参考サイト:

・ 大鹿村観光協会「秘湯・鹿塩温泉」

・ 岩塩を追いかけた男たち ― 黒部銑次郎物語(Webマガジンen 財団法人塩事業センター)


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