食育・健康

「農業という職業」を目指す若者たち-長野県農業大学校

長野県農業大学校

校舎からヒツジまで歩いて2分

歩みを進めると鶏の鳴き声が聞こえ、牛や羊が草を食んでいます。
ここはれっきとした学校の敷地内。長野市郊外松代町の山あいに建つ長野県農業大学校です。
この学校の学生と話すことで「おいしい長野県」の将来も少し占えるかなと考え、ここで農業を学んだ若者たちが、何を思って、どんな表情で巣立っていくのか、卒業のタイミングを見計らって訪問し、お話を伺いました。

【卒業式3週間前】
充実感ただよう2年生の表情が印象的でした

長野県農業大学校

最後の授業は高所作業車の実地訓練でした

「めっちゃ楽しかった~」「短かった~。もう卒業しなくちゃいけないんだ」と即答したのはHさんとMさんの仲良し農業女子でした。農業の専門学校って女性にとってはどうなんだろう、本音のところではつまらなかったり、つらかったり、ってことがあるのかな、と思いながらこの2年間について質問してみたところ、返ってきたのがこの答え。
正直なところお二人のこの短い答えだけで十分でした。農業の未来も、地域の未来も、そして聞き手である私の心も、一瞬にしてスカッと晴らしてもらえた気がしました。

長野県農業大学校

学校から見て長野市中心街ははるか彼方です

全寮制で、学校の周りには畑と田んぼと畜舎があるだけで他に何もナシ。入学当初はさすがに「大丈夫か」と不安になったし、所属コースに関係なく時々回ってくる家畜の当番の時は、餌くれと糞の始末に「もう必死でした」というMさんでした。でも、いい仲間たちやいい先生たちと共に農業を学ぶ毎日は充実し、将来の展望にもつながるものだったようです。ちなみにHさんは役場に、MさんはJAに就職することになっています。

長野県農業大学校

自分たちで育てたそばだから、想いもこもります

一方、教室に入ると別の学生たちがパックされた蕎麦にオリジナルラベルを張っていました。昨年育てたダッタンそばを製麺してこれから販売するとのこと。10反の畑で手塩にかけて栽培されたそばは約270パックにもなりました。学校の授業もこれが最後というM君は、実家のある富山で早速農業をするとのこと。一緒にいたT君は農機メーカーへ就職が決まっていました。農業に関係する職場もいろいろとあるんですね。

長野県農業大学校

ダッタンそばは、独特の苦みがやみつきになるとか

カリキュラムがそのまま将来につながっていく
この素晴らしさをもっと知ってほしい

長野県農業大学校

校舎は斜面に建ち、結構広い敷地でした。桜の名所でもあります

当校は長野県が運営しており、全員が寮に入って2年間農業をみっちりと学びます。教えられるのは学問としての農業ではなく実践としての農業です。今年の卒業生は40名で、内訳は実践経営者コース6名、作物コース7名、野菜コース11名、花きコース7名、果樹コース9名となっており、女性が約4分の1を占めました。
学校が一生懸命なのは授業だけではなく、卒業後の進路についても同様です。どんな学校も就職指導はありますが、ここは農業学校。「昨年のうちに就農も含めて全員就職先が決まっているんですが、これは当たり前のようで実は同種の学校では異例のことなんです」とちょっと胸を張りながら話すのは、マーケティングなどを教えている飯島先生です。たしかにこの学校はいたるところで先生たちの一生懸命オーラが充満しています。
先生によれば、学校の存在やその重要性ももっと地域の人たちに知ってほしいとのことで、地域と触れ合う様々なアイデアを形にしています。オリジナル蕎麦の販売もその一つなのですね。

長野県農業大学校

「農大だったん蕎麦」。蕎麦もラベルもオリジナルです

【3月8日 卒業式当日】
文字通り地に足をつけ、前に進む

長野県農業大学校

卒業式ではいろいろな「想い」が伝わってきます

卒業式当日、ビシッとスーツ姿の男子卒業生、袴に身を包んだ可愛い女子卒業生、そして在校生、ご家族、先生方がたが整列しました。けして大規模ではないけれど、心温まる卒業式です。
式に参列していると、若者たちが「農業を自分の職業と決める」ということの意味を、たぶん本人たち以上に重く受け止めてしまう自分に気が付きます。どうか日本の農業をよろしくお願いします、と心の中で手を合わせてしまいました。

長野県農業大学校

敷地内に牛、ヤギ、ヒツジ、豚、ニワトリ、が「普通に」います

当校の総合農業科・実践経営者コースは、情報系の企業に勤めるなどの職歴がある30才代から40才代が学び、卒業と同時にプロの農家となります。スーツで決めた彼らに話を聞くと「不安が9割で、希望は1割くらいかな」「農業の厳しさを思い知った2年でした」と正直な感想が聞かれました。
そう、けして甘い世界ではないですよね。でも、そのことを自覚した彼らは、率直に言ってとてもカッコよかったです。文字通り地に足をつけて第一歩を踏み出した皆さんに、心からエールを送りたいと思います。
ここを卒業した皆さんが一人前の農業人となった時には、ぜひこの「おいしい食べ方」で取材させていただきたい、と思った卒業式でした。皆さん、卒業おめでとうございました。

長野県農業大学校
長野県長野市松代町大室3700
TEL 026-278-5211

1458054000000

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