時間のゆっくり流れる山里でいただく笹ずし

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あと数ヶ月もすれば、そこは3メートルもの雪に覆われるという県内でも有数の豪雪地帯。その雪が溶けた後に現れる自然の恵みを地元の人々は大切に、料理に取り入れ作られてきたのが"笹ずし"でした。長野県北部、飯山市富倉地区の名物料理です。

しかし「すし」と言っても海無し県の信州ですし、しかも雪深い山里ですので、それは、笹の上に山菜などこの土地ならではの山の幸をおかずとして酢飯に載せたもので、時は戦国時代、武将・上杉謙信の一行が越後から川中島の合戦へ出陣の途中、この富倉を通過の際に、地元の人たちが、器の代わりに笹の葉にご飯とおかずを載せて振る舞ったのがはじまりとされ、別名もずばり「謙信ずし」と呼ばれます。

しかしもともとはこの笹ずし、笹と酢飯と山菜を交互に重ねて大きなすし箱に入れ、それに一晩重石をして作られたという押しずしだったのだそうですが、しかし時代は変わり、簡素化された今では、笹一枚に一握りの酢飯とおかずを少し盛ったものが、地元の人によって主に冠婚葬祭やおもてなしなどとして食されているのです。

この地方で生まれ育ち、70年以上も笹ずしを作り続けているという阿部キヨイさんに笹ずしを作っていただきました。

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戦国の世から伝わるおすし
すし桶の中の味付けされた酢飯を少しすくって、笹の上に手で軽く押さえつけながら、綺麗な小判型を作っていきます。ちなみにこの酢飯に使われている米は、うるち米に一割弱のもち米を混ぜたのが特徴で、こうすることで粘り気とツヤを出すのだそうです。また笹には殺菌作用があり、さらにご飯に酢を加えることも殺菌効果となります。

載せる具材は、山菜のゼンマイにコゴミ、そしてかんぴょうやシイタケなどすべて土地のもの。各家庭によっても中身は少しづつ違いますが、ゼンマイはどの家庭でも必ず入るのだそうです。

さらに具材に欠かせないものが大根の味噌漬け。当時しょう油は貴重品であった為、昔から各家庭で作られてきた味噌に大根を漬けたものを、これらの具材に塩気として合わせたのだそうで、こうして代々、その家庭の味が引き継がれているのです。

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実際、あっという間の完成でした。しかしこの笹ずし作り、雪溶けを迎える5月初旬からすでに準備がはじめられているのです。というのも笹ずしに欠かせない具材の山菜を、厳しい冬の名残の雪が溶けた頃、この時季を待って人々は山菜を採りに出掛けるのです。そうして収穫された山菜は、大量のお湯で茹でられた後、天日干しをしてしっかりと乾燥させます。中でもゼンマイは、ひと夏のあいだ天日干しをして、ようやく食べることが出来るという、実に手間のかかるものなのだとか。そうして冬の足音が聞こえはじめたこの時季には、たっぷり1年分の具材ができあがるのです。

正しい食べ方があります
現在では、薄ピンク色が綺麗な古代米のムラサキ米を使ったり、また酢飯の上には錦糸たまごなど色彩豊かに作られているところもありますが、地元で採れる山の恵みに、紅しょうがを彩りとして少し載せるのが、阿部さん流。鮮やかな緑の笹の葉に盛られたその様子は、素朴ながらも食欲がそそられるひと品に仕上がりました。

この笹ずしの食べ方といえば、口元に笹ずしを持っていき、食べはじめるご飯の下にある笹の部分を顎の方へ少し下に引っ張りながら、食べる部分だけのご飯を浮かび上がらせる格好にして、食べ進んでいくのですが、箸など使わず直接笹の葉から食べるのがこの笹ずしの正しい食べ方です。

ところで笹ずしは、どちらの方向 ― 柄の方からか、それとも葉の先端の方からか ― 食べる方向がきまっているのでしょうか? 実はきまっているのです。それは笹の柄の方から先端に向かって食べ進んでいくのが最上だとか。葉に生える毛の向きの関係で、それと反対に笹の葉を手に持つと、指に細かい毛が突き刺さりチクチクするのです。ですから見た目につられて勢いよく食べ進まずに、まずは落ちついて手にとる方向を確認してから、お召しあがりください。

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気分は上杉謙信のままに
"笹ずし"のふるさと富倉は、飯山市内から車で30分ほどの緩やかな坂道を登った所にあります。周りを山に囲まれながらも険しい山はなく、高く広がる空には開放感があり、そしてどっしりと構えた昔ながらの家々は程よい距離を保って建ち、その家々の前にある小さな畑では野菜や花などが植えられて、この場所にたたずんでいるだけでなんだか心が解きほぐれていく、なんとも安らぐ場所です。

この場所で、かの謙信も口にしたであろう笹ずしに想いを馳せながら、味わってみてはいかがでしょうか。また毎月2と6の付く(2,6,12,16,22,26)日の夕方に、飯山市本町のぶらり広場(飯山駅より徒歩10分)で開かれる"六斎市(ろくさいいち)"でも、この笹ずしの販売が行われています。


関連サイト:

 ・飯山市公式サイト | 観光情報


笹ずしが食べられる場所:

 かじか亭:〒389−2258
      飯山市大字富倉1769
      電話 0269−67−2500
      定休日:火曜日(事前の予約が確実です)

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