野沢菜と温泉が素敵においしく出会う現場へ

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ここは野沢温泉のシンボル、「麻釜(おがま)」です。麻釜の名はこの湯に麻を浸して皮をむいたことに由来するのですが、今ではここは天然記念物に指定されており、観光名所ともなっています。「麻釜」では熱湯の源泉を利用して、野沢菜や温泉玉子をゆでています。温度は約90℃。弱アルカリ硫黄泉で、このお湯に野沢菜を浸けて茹でるとうまくアクが抜けるのです。通常は地元の方以外は立ち入ることができませんが、今回は特別に許可を得て、柵の中へ立ち入ることができました。

温泉と菜の素敵な出会い
野沢菜発祥の地で野沢菜洗いと漬けの作業を見せてくださったのは、竹井孝子(たけいたかこ)さんと富井真澄(とみいますみ)さん。おふたりは、野沢菜漬けをはじめ、地元の味を広めるために「郷土料理研究会」の一員として、9人のお仲間と活動しています。現場に足を踏み入れると「ぼわ〜っ」っと湧き出る湯気の中で、おふたりが準備万全で立っている姿が見えました。麻釜に近づけたことを喜んでいると、富井さんが長い柄のついたザルで菜の花をゆでて、食べさせてくれました(上の写真)。茹であがった菜っ葉からは、かすかに硫黄の香りがします。口にすると、これが「甘い」のです! 富井さんが笑顔で言いました。

「甘いでしょ〜! どういうわけかね、ここで茹でると甘みが増すのよ。自宅のお鍋で茹でないで、わざわざこの釜まで茹でに来る人も多いんですよ」

いやいや、このこだわりですね。わざわざここに来て野菜を茹でたい、というみなさんがいらっしゃるのも、うなずけました。実際に野菜の甘さが増すのだと、その場にいたみなさん全員が口をそろえます。普段、富井さんはご自宅近くの温泉で野菜を茹でているのだとか。それにしても温泉のお湯で野菜をゆでるなんて、温泉地に住む方たちの特権ではありませんか。うらやましい限りです。

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おふたりはもうひとつの、ややぬるめの湯の釜で野沢菜を洗って見せてくださいました。温かいお湯で洗うと、野沢葉についた土の離れがよく、葉についている虫も出て来やすいため、しっかりと余計なものを取りのぞくこともできるのだそうです。温泉なので、手が氷のように冷たくなることもないし、なんといっても甘みが増すし、良いことづくめです。

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信州では野沢菜を漬ける季節
信州では毎年11月に入ると、各家庭で野沢菜を漬ける習慣があります。野沢菜漬けの本場である野沢温泉村では、10月末から11月中旬がその時期にあたります。自宅で育てた野沢菜を使う家庭もあれば、お店で手に入れた野沢菜を使う家庭もあります。そのやり方は、十分に育った野沢菜から蕪(かぶ)を切り落とし、よく洗ったら、冷水で締めます。そしてすぐに樽の中へいれ、漬け込みます。

このとき菜っ葉が温かいままだと、すっぱくなってしまうので注意が必要です。味付けは塩と唐辛子が一般的。塩の量は「初雪程度」にパラパラと野沢菜の上に振り掛けます。このように順に重ねて、重石を乗せておきます。好みにより、昆布、煮干し、味噌などをいれるご家庭もあるようです。

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このまま外などの寒い場所へ置いて、葉が隠れるほどまで水が上がったら重石を軽くしていきます。こうして水に浸したまま2〜3日置いておくと、良い味がでるのだそうです。「年末年始が一番おいしい時期」と竹井さんは言いました。

野沢菜漬けはそのまま食べるだけがおいしいのではありません。冷蔵庫に入れたまま食べきれずに古くなってしまっても、細かく刻んで油で炒め、油揚げやじゃこ等のお好みの具と一緒に甘辛く味付けしてもおいしく召しあがれます。高菜の代わりに、明太子と一緒にして食べてもなかなかの味。野沢菜をご自宅で作っている方は、野沢菜を菜っ葉のままお浸しにしたり、甘辛く煮付けて楽しむこともしばしばだそうです。竹井さんや富井さんは現在、野沢菜を使ったお料理を考案中。来年の5月にそのお料理がお披露目になるので、再び取材にうかがわせていただく約束をし、麻釜を後にしました。

早く今年の野沢菜が食べたいです
野沢菜の発祥は、その名からわかるように、今回訪れた長野県下高井郡野沢温泉村と言われています。野沢菜の原種を生産する野沢温泉村の健命寺の口伝によると、宝暦6年(1756)頃に、当時の8代目住職の晃天園瑞和尚が京都遊学の折に、京都・大阪で名産の天王寺蕪(かぶ)の種を持ち帰り栽培をしたことがはじまりだとか。その種を寺の畑にまいたところ、蕪が小さく葉柄が大きい天王寺蕪とは違ったものが育ったのです。野沢温泉は標高600メートル近く、積雪量の多い高冷地。温暖な西国育ちの天王寺蕪が突然変異をおこしたため、ここ長野県の野沢温泉村で野沢菜が誕生することとなりました。

信州人だけでなく、みんなに愛されている「野沢菜」。その発祥の地で漬けられた野沢菜は、今年はどんな出来ばえとなるでしょうか。すでに信州は厳しい冷え込みです。12月にはスキー場もオープンします。樽の中の野沢菜は今、日に日においしさを増しながら眠っている最中です。まもなく今年も信州に野沢菜のおいしい季節がやって来ます。


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