「野山の旬をいただく」~冬編~ 寒のモノのいいところ

野山の旬をいただく

大根すだれ

地域それぞれに、その土地特有の農作物が育ち、また、その土地を形成する野山、川、海が、自然の恵みをもたらしてくれます。そしてまた、食べ物や気候風土も、そこに住む人たちの体質や気質と深く結びついています。

野山からの旬のものに感謝し、さまざまな料理を工夫し、端境期に備えて加工、保存し、大切に食べる・・・。南相木村で、そんな「あたりまえのくらし」を実践している"仙人"に倣う「野山の旬をいただく」の5回目は、寒の手仕事です。

「寒のモノ」は身体によく、傷まない

暦の上では立春を迎えましたが、信州はまだまだ寒い日々が続いています。仙人が住む標高1000メートルを超える南相木村の最低気温は、マイナス10度以下があたりまえ。野山は一面雪に覆われているので、今回は寒い時期ならではの仙人の手仕事を教えてもらいました。

野山の旬をいただく

野菜畑は銀世界

一年で一番寒い時期を寒といい、寒入りから節分までの期間(1月5日~2月3日頃)をさし、この時期を寒中といいます。寒中に汲まれた水が「寒の水(かんのみず)」で冬の季語。一番寒い時期の水は質が最も良く、柔らかな味でいつまでも腐ることなく、長期保存出来るといわれました。おそらく寒さの厳しいことが、雑菌の繁殖を抑えたためでしょうか。昔は今のように冷蔵庫や保冷剤、保存剤などがなかったので、寒中に汲んだ水は貴重なものだったのです。
寒の時期に作られた味噌や醤油、酒は「寒仕込み」と呼ばれて珍重されますが、この仕込みに欠かせないものが寒の水です。寒の水以外にも、寒のモノは身体によく、傷まないといわれました。

寒風を上手に利用した手仕事「寒ざらし大根」

寒干し梅や寒中あられ、寒ざらし粉、寒ざらし大根など、寒風を巧みに使って長期保存するものはたくさんあります。それらをつくる仙人の手仕事を紹介します。

野山の旬をいただく

一年前の寒ざらし大根

厳しい寒さを上手に生かした暮らしの知恵が詰まっている寒ざらし大根。
「今は年中新鮮な大根が流通していますが、昔は、秋収穫した大根を土室で保存し、春(3月~4月)まで食べていました。春大根の種をまき、収穫できるまでの端境期(5月~6月)に食べられていたのが、寒ざらし大根。田植えには、どこの家でも寒ざらし大根の煮物が出されました」と仙人。
その家庭によって煮物の具はちがうようですが、お湯か水で戻した寒ざらし大根は欠かせません。その汁で身欠きにしんや厚揚げ、肉、にんじん、昆布、しいたけなどと一緒に煮ます。生の大根とは一味ちがう寒ざらし大根の煮物は、昔から続く知恵がつまった一品です。

"仙人"の寒ざらし大根の作り方

用意する物 大根、ビニール紐、セロテープ
作り方 (1) 大根は皮をむき、厚め(2.5cm位)の輪切りにします。
野山の旬をいただく
  (2) たっぷりの湯で、大根をゆでます。ゆで時間は約15分。ゆで過ぎると、吊るした時に割れて落ちてしまいますので、大根が柔らかくなりすぎないように注意。
野山の旬をいただく
  (3) ゆで上がったら、ざるに取り、大根の中心に小さな穴を開け、ビニールの紐で一連に10個位通して軒下に吊るして寒風にさらします。凍みたり、溶けたりを繰り返し、少しずつ水分が抜け、3月に入る頃には出来上がります。
野山の旬をいただく
ゆで上がった大根

「昔は、稲わらに通して乾燥させていたのですが、今はビニール紐を使ってします」と仙人。大根をビニール紐で吊るす方法は仙人が考案しました。ビニール紐の先端にセロテープを細く巻き、大根の穴に通しやすくします。輪切り大根の真ん中に竹串で穴を開け、用意したビニール紐を通しコブを一つ作り、大根と大根がくっつかないように連をつくり軒下に吊るし寒風にさらされて乾燥させます。
「寒さが厳しければ厳しいほど、質のよい寒ざらし大根ができますが・・・」と、近年の暖冬傾向を心配する仙人です。

年代物の「寒干し梅」と「寒中あられ」

野山の旬をいただく

寒干し梅

平成元年の貴重な寒干し梅をいただきました。色は真っ黒で表面に若干の塩の結晶がありますが、酸も塩分もほとんどなく、発酵が進み、種まで食べることができました。「こんなに長期保存できたのも寒風にさらしたからでしょう」と仙人。寒のモノは傷まないことを実証しています。
また、昨年の寒中あられを揚げたものをいただきましたが、一年前のものとは思えないほどカラッと揚がり、とまらない美味しさでした。

野山の旬をいただく

一年前に作ったもの

野山の旬をいただく

「寒ざらしあられ」のあられ

立春に入りましたが、信州の厳しい寒さはまだまだ続いています。厳しい寒さは辛いだけのものだと思っていましたが、身体によく、生活に役立つ面もたくさんあるのですね。この時期でしかできない手仕事に挑戦してみませんか。

この記事を書いた人

さくら

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