白馬村にしかない特別なヤギのチーズ 前編

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オーストラリア・メルボルン出身のロバート・アレキサンダーさんとたっぷり愛情を注がれて育つヤギたち

At_the_Foothills_of_Northern%20Alps.png「北アルプス山麓ブランド」とは、長野県北西部の北アルプスの山麓に位置し、大北(だいほく)エリアと呼ばれる大町市、池田町、松川村、白馬村、小谷村の5つの市町村において原則的に栽培され、飼育され、採取され、または生産されるすべての農畜産物を対象に、地域のイメージ向上につながるなど4つの条件をクリアした品目をブランド認定したものです。当ブログマガジンでは、このブランドに認定された品々にスポットをあて、紹介しています。北アルプスの山々が育てた特別なもののシリーズ第2回目は白馬村で手作りされる「シェーブル・チーズ」つまり「ヤギのチーズ」です。話しがステキに面白かったので、前編と後編の2回に分けて報告します。

長野市と大町・白馬村などの大北地域を結ぶ「オリンピック道路」を車で移動すること1時間余、多くのスキーヤーが毎冬訪れる初夏の白馬村には、のみ込まれそうなくらい威勢のよい新緑の季節が訪れていました。今回の主役は長野県北安曇郡白馬村にある白馬岩岳スキー場のふもとに暮らす、ロバート・アレキサンダー(Robert Alexander)さんと、のびのびと暮らすヤギたち。ロバートさんは幼い頃から日本に憧れ、オーストラリア・メルボルンから来日しました。現在日本人の奥様とここ白馬で暮らしています。

goatcheese_2.jpgヤギのチーズやミルクと聞いただけで「クセがある」「臭い」というイメージをお持ちの方もきっと多いでしょう。記者もそう考えていました。ロバートさんが少し困った様子で、しかし笑顔で話します。

「誰もがそう思っているんですよ。でもうちのチーズは真っ白でやわらかくて、むしろ淡白で、ほどんどクセがないんです」

それからロバートさんはヤギのチーズについてさらに詳しく教えてくれたのです。


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ヤギのミルクの味の謎
「桑の葉をいっぱい食べた次の日のミルクは甘くておいしいんですよ。シソを思いっきり食った後のミルクは青臭い。ヨモギもたくさん食べたらなんかハービーなんですよ」

どうやらヤギの食べるものと、ミルクの味は密接に関わりがあるようです。

「じゃあ、なんでそういう(ヤギのミルクは臭いという)イメージがついたのかって話です」ロバートさんは続けました。「昔、日本ではヤギが一家一頭という感じで飼われていましたよね。ヤギのえさによってミルクの味って変わるわけなんですよね。その昔はとりあえず(ヤギは)家の周りの雑草を食っていたんです。それで(ミルクが)雑草の味になるわけなんですよね。なおかつ、体の栄養状態によってミルクの味が悪化するんですよ」

ヤギは草刈機ではありません
「それにヤギを草刈り機だと思って飼っているから栄養状態が悪いなんていうのも当たり前なんです。それにヤギのミルクには牛乳に入っていない脂肪酸がいくつも入っていて、そのまま常温で置いておくとすぐ酸化して臭くなりやすいんです。要するに昔のヤギのミルクっていうのは、臭いものだったんです。冷蔵庫もないですし。ですから雑草を食って、栄養状態の悪いヤギのミルクをそのまま常温で置いておけば、そりゃあ、臭いわってことになるんですよ」

1日におよそ40個のチーズ
「でも飼いかたひとつで解消できるんですよね。うちの場合は絞りたてのミルクをすぐに加工に持ち込むんです。臭くなる間もないんです。ですから今朝絞ったミルクっていうのも、昼までにはチーズになりはじめているんです」

季節によって味の違いが出る、それがロバートさんの作るチーズの良さだし、面白さでもあるといいます。

ロバートさんの作るチーズは4種類を基本としています。今まではすべてお一人で作っていたのですが、最近友人が手伝ってくれるようになったため、全体として1.5人の労働力で、一日おおよそ40個のチーズを作ります。

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「風の谷ファーム」ヤギのチーズ4種。写真左上から時計回りに、
「フロマージュブラン」、「オイル漬けのチーズ」、「フレッシュ シェーブル二種」

フロマージュブラン
ボウルに入っているチーズは、「フロマージュブラン」。今までは料理人に出していたものです。写真のように水分(ホエー)が多くヨーグルトのような状態ですが、この水分をザルで切って、固形分をスイーツにしたり、素材としてお料理に使います。無塩状態なので色々に活用できるといいます。残った水分(ホエー)は、栄養が豊富なので、パン作りやお料理などに使えます。「フロマージュブラン」は希望があれば個人の方にもお分けすることができますので、道の駅までお問い合わせください。価格は1,050円です。

オイル漬けのチーズ
また、右奥のビンはハーブ入りの米油に浸した「オイル漬けのチーズ」です。ビンのすぐ手前がビンから取り出したチーズです。チーズだけでなく、ぜひオイルも召しあがって欲しいそうです。パンにつけたり、ドレッシングの材料に、さらにオムレツを焼く際に使うとロバートさん曰く、"一気に「ヨーロピアンな」仕上がり"になるそうです。こちらも価格は1,050円、未開封であれば1年ほど常温で保存できます。

フレッシュ シェーブル
そして手前にある2種類のチーズは、「フレッシュ シェーブル」です。プレーンタイプとプロヴァンスのハーブつきがあります。それぞれひとつ700円です。口に入れてみると、ロバートさんが言うように、臭みなどまったく無く、まろやかな味です。おいしいフランスパンと一緒に食べればおいしさが倍増するそうです。賞味期限は夏場は2週間、冬場は3週間が目安です。

エルミタージュ・ドゥ・タムラ御用達
チーズは発送準備などの人手が足りないため、インターネット販売はしていません。ただし、道の駅白馬にお問い合わせいただければ、地方発送も可能です。ロバートさんは朝から晩までヤギの世話とチーズ作りと品出しに明け暮れているため、営業もままならないといいます。時々放牧の時間にレストランに電話で売り込みをする程度。最近は軽井沢にあるフランス料理店「エルミタージュ・ドゥ・タムラ」に気に入ってもらい、使ってもらっているそうです。

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ヤギたちの顔はどの子も幸福そう
ロバートさんが飼っているのは全て雌ヤギです。現在飼育しているのは大人のヤギ18頭。今年は14頭の母ヤギから平均2頭、計28頭が生まれ、子ヤギの内訳はオス14頭、メス14頭でした。なんと、健康状態がよいと、雄と雌の比率がちょうど半々になるといいます。子ヤギは生まれてから夏までの間に、他の牧場などへ引き取られてゆきます。

ヤギのミルクの味は飼い方で変わるといいますが、ロバートさんの"ヤギの飼い方"とは一体、どんな方法なのでしょうか? 秘密は"自然に近い状態を保つための放牧"にありました。

お昼ごろ、ロバートさんの後を着いていくと、遠くのほうから「メェ〜」というヤギの声が連続して聞こえました。きっと姿が見えたのでしょう、ヤギたちが一斉にこちらを見ています。まるでロバートさんを呼んでいるかのようでした。ヤギにとっては食事の時間、放牧に行くのが一番の楽しみなのです。

手がかかるけれどこの飼い方にこだわる
あいにく雨が降り出してきましたが、ピシャピシャという雨音と、涼しい風の音、ヤギたちが踏み分ける木の葉や草の音が重なって、まるで別世界にいるようでした。今の時期、放牧はおよそ3時間ほどだとか。たくさんのヤギを長時間、森の中で放牧するのです。

「森の中はやっぱり全員見れないので、遅れそうなヤツだけ探すんですよ。ちょっと足が遅い"美麻"とか、自己が強い"ベージュ"だけ探して、『あ、居るな、居るな、じゃあいくか』ってね」

この飼い方をロバートさん自身は「手間のかかりっぱなしの効率の悪い飼い方」だといいます。なぜ、わざわざこの飼い方にこだわるのでしょうか? ロバートさんに伺いました。

「ヤギはただ単に草を食ってちょうどいいわけじゃないんです、実は。羊とか、牛みたいな食べ方というよりも鹿みたいな食べ方をする動物なので、草だけじゃなくて木の葉っぱも食べなきゃいけないんです。草の根っこは短いじゃないですか、ヤギは他の動物よりもミネラルをたくさん必要としている動物なんです。木の根っこっていうのが深いんで、土の深いところからミネラルをいっぱい吸い上げた葉っぱからは、体に必要なミネラル分が含まれるんです。だから、改良されている牧草地に離したところでヤギの健康はそんなによくならないんですよ」

「この場所はすぐ隣に田んぼや畑があるから、放し飼いにはできないので、だからいつもついて歩かなければいけないんです。本当は森の中に柵をたてて、いつも森中を自由に動かしてあげられる状態にできれば理想なんですけどね」

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背伸びをして木の葉を食べるヤギたち。自分の体に必要な栄養素をもつ植物を知っているのだ

ロバートさんの餌へのこだわり
「これ、桑です。桑の葉っぱは昔お蚕さんに食わせていただけあって、栄養分が豊富ですよね。たんぱく質が16パーセント、ヤギは14パーセントもあれば十分なんです。だから桑が一番大好物なんですよ」

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これが桑。ヤギは桑が一番大好物なんです

2番目の好物はクズだそうです。これはたんぱく質がおおよそ14パーセントあるといいます。

「ヤギを放牧させておいて、桑やクズのある場所につれていけると非常にいいんですね。だからこういうスキー場のようなゲレンデが草場になる場所が理想なんですよ」

このロバートさんのスキー場を使った飼育の仕方はヤギたちにとって自然に近い、健康的な暮らし方だったのです。これが北アルプス山麓ブランド「ヤギのチーズ」の味を支える秘密でした。

植物以外の餌は、クズ米を主体にしています。米はたんぱく質が少ないので、そこにたんぱく質の高いおからも加えます。さらにチーズ作りの際にでるホエーもミネラルもたんぱく質も多いので餌に加えます。ホエーに入っている成分はヤギは消化できるので、少し加えれば栄養分が高まります。理想は鶏や豚など他の家畜も飼って、ホエーを全て使い切ること。

ロバートさんは新天地を求めてる

ロバートさんは今の目標をこう語ります。

「目指しているのが(チーズ作りで)国産自給率100パーセント、オーガニック100パーセント、それからヤギ好き人口を増やすこと」

実はロバートさんのヤギのチーズが食べられるのは、今年いっぱいになるかもしれません。というのも現在「風の谷ファーム」は、岩岳スキー場の事情により、来年3月にはここ白馬から出なければならないのです。

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ロバートさんは家族やヤギたちと暮らし、チーズ作りを続けるため、現在新天地を探し求めています。情報のある方は「風の谷ファーム 白馬」までご一報をお願いいたします。

困難はあれど、生まれ故郷を離れてひたむきに暮らすロバートさん。そもそもなぜ日本に訪れ、この地でヤギを飼い、チーズを作ろうと思ったのでしょうか。

続きは次回の「長野県のおいしい食べ方」でご紹介します。

 ・白馬村にしかない特別なヤギのチーズ 後編

風の谷ファーム白馬
風の谷ファーム 白馬ウェブサイト
TEL&FAX:0261-72-4775


関連サイト:

・エルミタージュ・ドゥ・タムラ
 ウェブサイト
 長野県北佐久郡軽井沢町長倉820-98
 TEL:0267-44-1611
 FAX:0267-46-6166

白馬岩岳スキー場


北アルプス山麓ブランド「ヤギのチーズ」の販売について:

※チーズは発送準備などの人手が足りないため、インターネット販売はしていませんが、道の駅白馬にお問い合わせいただければ、発送も可能ですので、ご希望の方はお問い合わせください。主要販売箇所は以下の通りです。

〇道の駅白馬 (※地方発送が可能ですので、お問い合わせください)
 ウェブサイト
 〒399-9301
 長野県 北安曇郡白馬村大字神城21462-1
 TEL:0261-75-3880
 FAX:0261-75-3810

〇ジャスコ新白馬店内 「白馬自然館」
 ウェブサイト
 〒399-9301
 北安曇郡白馬村北城1007
 TEL:0261-72-4222

〇白馬のおみやげ屋『ギフトギャラリー』
 ウェブサイト
 〒399-9301
 長野県北安曇郡白馬村北城5088
 TEL:0261-72-4322
 FAX:同上

〇雑貨屋 とんがらし
 ウェブサイト
 〒399-9211
 長野県北安曇郡白馬村森上12867-216
 TEL:0261-72-8787
 FAX:同上

〇信濃屋
 ウェブサイト
 〒380-0917 長野県長野市大字稲葉2482
 TEL:026-227-1261
 FAX:026-264-5667


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