ローカルフードは心も満たす「すんき漬け」

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なるほど日本全国に「漬物」はたくさんありますが、信州の伝統が生んだ、信州ならではのお漬物を、ひとつご紹介いたしましょう! と聞いて、いま「野沢菜漬け」を頭に描いた方、いいですね〜♪ こたつで、野沢菜つつきながら、熱々の日本茶飲む、信州の冬がすぐそこまでやってきてますからね。しかし、残念ながら今回は違います。

信州の木曽地方に「すんき漬け」なるものがあるのは、ご存知ですか? 実はこのすんき漬け、全国でも非常にめずらしい「塩」を使わないで漬ける漬物としてその名を知られ、長野県味の文化財にも指定されている、木曽の一部で戦国時代の昔から漬けられ続けてきた漬け物です。

しかも最近では、その「すんき漬け」が花粉症やアレルギー体質の方などにとても良いことが研究で分かってきたのです。「すんき漬け」の名前は覚えていただけましたか? では、どうやって漬けるのか? なぜ、漬かるのか? はたまた、それがなぜ体によいのか? そうした謎をつきとめるべく、「ローカルフードは心も満たす」不定期連載の第9回目は、すんき漬けの名人のもとを訪れます。

昔からその名を広く知られて
すんき漬けの歴史はいまだはっきりしていませんが、木曽地方事務所によると、その歴史は古くて、約300年前に開かれた芭蕉一門の連句会で「木曽の酸茎(すんき)に春も暮れつつ」と詠んでいることや、約150年前の古文書にも、すんき料理が出されたと記されているそうです。当時すでに「すんき」と名の知れた郷土食であったと考えられます。

今回、すんき漬けの作り方を、名人の野口広子さんに聞いてきました。野口さんは、木曽町新開の「ふるさと体験館きそふくしま」で、毎年この時期にすんき漬けの作り方講座や「すんきコンクール」を開いて伝統を教え広めておられるすんき名人のひとりであります。

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カブの茎と葉を使います
すんき漬けには、約400年の歴史を持つ木曽の赤カブの葉を使います。木曽地方には王滝かぶ、三岳黒瀬かぶ、開田かぶなど様々種類があります。昔からカブはこぬかと塩で漬ける「赤カブ漬け」に、茎葉は、塩を使わずに漬ける「すんき漬け」にされて、余すことなく一物全体が食べられてきました。

木曽路は今でこそ自動車で快適に行くことができますが、その昔は山の道は険しく(今もですが^^;)塩は入手困難なものでした。これを表す言葉に先人は「米は貸しても塩は貸すな」と言い残しています。そこで、貴重な塩を使わずに「カブの葉を植物性乳酸菌で発酵させる」という先人の知恵が生み出した無塩の漬物が出来たのです。

すんきの乳酸菌の真実
はじめは山の果樹の実を発酵させた乳酸菌を用いたと伝えられています。乳酸発酵させた漬物ですから、みなさんがイメージする漬物の塩味ではなくて、乳酸菌特有の香りとさっぱりとした酸味が特徴の漬け物らしくない漬け物と言えるでしょう。

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すんき漬けは、昔は各家に備え付けらた専用の桶(おけ)で毎年漬けられました。桶には乳酸菌がびっしり付着しているためすんき漬けが漬けられたそうです。

現在では主に「すんきの種(タネ)」を使用して作ります。種というのは「A、昨年のすんき漬けの乾燥した物」「B、昨年のすんき漬けを冷凍したもの」などがあげられますが、一般的によい出来のすんき漬けを、来年の種として残しておきます。よいすんきとは「適度な酸味があり、しかもその中に旨みのあるもの」です。「『すんきの種はもらってつくれ』と昔から言われているんですよ。さらに、乳酸菌は漬けるたびに強くなっておいしくなるんです」と野口さんは教えてくれました。

なんでもすんき漬けのなかにはいまのところ10種類の菌が確認されており、そのなかの主に4〜6種類の菌が働いてすんき独特の風味を出すことがわかってきているそうです。

作り方を簡単に説明しましょう
まずはカブ菜をよく洗い、これを2cmくらいに刻んで、サッと(3〜5秒間)あたためるために湯通しします。つぎに湯通ししたカブ菜を、発泡スチロールの箱にしいた漬物用のビニール袋へ移します。熱を保つために発泡スチロールの箱を使用します。カブ菜を少しさましてから、すんきの種を入れて、力強く上から押します。60℃以上だと、乳酸菌が死んでしまううので注意します。極力空気を出しきって、袋の口をしばり、密封状態にします。

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そのまま24時間から48時間は、乳酸菌の繁殖を促すために、発泡スチロールのふたをきちんと閉じて、温度が下がらないようにします(すんきの種と漬けるカブの葉の量によっても違う)。このときの保温状態がすんきの出来を左右するといわれます(名人の技と勘が生きるのがここのところ)。そして、そのあとは家の中の涼しいところに箱ごと移します。袋の口は開けてはいけません。約1週間から10日ほど待つと、完成となります。目安はカブの葉や茎が種と同じ鼈甲色(べっこういろ)になることです。[菌の状態によってはすぐ発酵しはじめ、数時間で繁殖し、袋がパンパンになるものが多いのですが、これも3日〜4日ごろにはピークを過ぎるとのことです。]でき上がったら、漬物同様に涼しいところで管理してください。

もしすんき漬けを食べ終えてもカブの葉を次に次にと入れれば、新たなすんき漬けを一冬のあいだ召しあがることができます。すんき漬けで最も注意することは、乳酸菌なので、環境に大きく左右されるし、カビには十分注意が必要です。

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全国の方へ朗報!
最近の情報では、このすんき漬けが改めて県内外で注目されつつあるようです。ご紹介した通り、塩を使わず、植物性乳酸菌から作られることから、人の体にとてもよいことが分かってきているからです。

信州大学の研究では、アトピー性皮膚炎や花粉症の原因とされる抗体をすんき漬けの乳酸菌が押さえてくれるそうです。すんきの漬け汁には1ミリリットル当たりではなんと「約1億個」もの乳酸菌が生息しているということが判明しました。この乳酸菌が抗体を抑制すると考えられています。現在この木曽の「すんき」から抽出した植物性乳酸菌と豆乳を混ぜ合わせたヨーグルトが初めて完成し、健康食品として注目を集めていたりします。

さらに、すんき漬を食べる木曽地方と食べない県内の他の地域とを比較すると、食べる地域でアレルギー疾患の人の割合が極めて低い事が発表されています。今後はさらなる詳細な調査・研究がすすめられるようです。

野口さんは「同じ村でも、出来は昔からその家それぞれ。温度、湿度、どれをとっても皆微妙に違うんですよ」と笑顔で話してくれました。

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現在もこのように、食の伝統が脈々と受け継がれています。すんき漬けは、まさに、信州から全国の皆さんに自信をもって発信できる健康食品。漬物としてはもちろん、みそ汁の具とした「すんき汁」、信州ならではの「すんきそば」! また、油で炒めて砂糖醤油で味つけして食べるなど様々に、ご家庭で工夫して食べていただけます。「ふるさと体験館きそふくしま」ではすんき漬けの通信販売もしていますし、また木曽すんき研究会と木曽農業改良普及センター編集の「すんき料理集」という本も、好評で現在改訂版増補第5版が販売されています。そしてこれからの時期には、木曽地域の「道の駅」でも「すんき漬け」がお求めになれます。みなさんも信州伝統の味を試して健康を維持しましょう。

すんき漬けのさらなる情報、通信販売は「ふるさと体験館きそふくしま」まで。

ふるさと体験館きそふくしま
長野県木曽郡木曽町新開6959
電話0264(27)1011
Email:npo-furusato@taikenkan.jp

arrow2.gif ふるさと体験館きそふくしまウェブサイト

indexarrow.gif すんき漬け注文ページ(木曽すんき研究会と木曽農業改良普及センター編集の「すんき料理集」もこちらから注文できます。)

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