野菜

月のリズムで農業をする人たちがいるのです

 

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暮れなずむ泰阜村から見た日没直後のスカイライン


不思議な話を耳にしました。「月のリズムで農業をする」方法があるのだといいます。少しだけ詳しく言えば「月の満ち欠けによって、いつ、どんな農作業をしなくてはならないのかが分かる」のだそうです。

はるか昔、私たちの祖先はこの月のリズムを使った方法で当たり前のように農作物を育てていたとも言われています。生活のすべてが月のサイクルにしたがっていた可能性すらあります。もしそうなのだとすれば、この話は不思議な話でもなんでもなく、"あたり前の話"になるのかもしれません。

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もっとも、農作物だけではなく、すべて地球で生きているものは月のリズムの影響を受けているともいいます。28日間をかけて、月は満ち、そして欠けていきます。それに合わせて生物の体にも変化がおきます。満月の夜にだけ咲く花もあるし、満月の夜になるとサンゴが一斉に産卵すると聞いたことがある方も多いでしょう。女性の生理現象もおおよそ28日のムーンサイクルです。そう、人間だって月の影響を受けています。なんだかとても不思議だと思いませんか。

この「月のリズムで農業をする」人たちが、信州の南に位置する下伊那郡泰阜(やすおか)村にいると聞き、11月4日に編集部のある信州の北に位置する長野市から、南信州の泰阜村まで、車でおよそ180キロの距離を縦断しました。とりあえず取材はしたものの、実はまだ、この方法はきちんと確立されたものではないのですけれど、実に興味深く、かつ読者のみなさんにも役立つであろうお話ですので、ご紹介します。

ハウス栽培なら害虫対策に効果てき面
新月を翌々日に控えた4日、泰阜村に到着した頃はすでに薄暗い午後5時ごろでした。周囲を山々に囲まれ、わずかに頭上に広がる空には、すでに月はありません。月齢27日を過ぎて新月に向かう細い三日月は、真夜中にのぼってきて午後3時には沈んでしまいます。日が暮れると南信州ももうかなり寒くて、暖かなストーブが灯された部屋で、月のリズムで農作物を育てている、やすおか村産直組合の萩本嘉彦さんにお話を伺いました。

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翌朝見せていただいた野菜栽培施設。ここで実験が続けられている


「実は具体的な結果はまだ出ていなくて、みなさんにお示しできる段階ではないんですよ」

そう語りながらも、3〜4年前からはじまったという取り組みをお話してくださいました。1年に13回巡ってくる満月の月のリズムを農業に生かす方法で、最も結果が出ているのは、農作物被害を引き起こす害虫に対する農薬散布だと萩本さんはいいます。

虫は満月になると産卵をします。その卵がふ化するのがおよそ4〜5日後。したがって幼虫が卵から出てくる頃に合わせて、農薬を散布して害虫を退治してしまうのです。この方法は特に、トマトのようにハウス栽培をする農作物には効果がてき面だといいます。

この方法が露地栽培には使えない理由
「けれども虫にも色んな虫がいて、100パーセントの虫に効果がでるわけではないんだよ。農作物の表面に卵を産む虫にはいいが、いくら農薬かけても幼虫が実の中に入り込むとか、そういう虫もおって。でも空中に浮遊するような虫にはてき面だね。必ず農薬の効果がでる。そういう意味では、虫に関しては満月から4〜5日を狙って農薬を打つとすごい効果がある。これは自分でトマトをやってみてわかったんだよね。ただし、露地栽培になると、たとえば果樹なんかそうなんだけど、その場に農薬を散布してそこにいる虫は退治できても、外から飛んできた虫は防ぎようがないもんで・・・・。例えばリンゴの木についている虫は死ぬけど、山におって農薬を散布したあとに飛んで来る虫には対処できないよね。だから絶対こうだっていう方法がまだなくて、現場で応用しようと思ったときには難しいんだよね。園芸施設栽培には効果があるといえるかもしれないけれど」

「いずれにしても、月1回で殺虫が済むということは、あとは農作物に何か病気が出ない限り減農薬になる、ということになるんだよね」

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ほうれん草の施設栽培は今年から始まっている


来年以降にもっとはっきりとした結果が出る
泰阜村ではこれまでトマト以外にハウス栽培は行っていませんでしたが、今年からほうれん草の施設栽培を始めました。しかし今年は暑い日が続き、異常気象で虫が大発生したゆえに、ほうれん草での効果の検証まで手が回らなかったといいます。トマト以外の農作物にも月のリズムを使った栽培方法に効果が出るかどうか分かるのは、来年以降になるといいます。

「肥料に関して言えば」萩本さんは続けます。「肥料をまくタイミングは月のリズムに実はあまり関係ない。常に畑を適当な肥料分に維持したところへ種まきや定植をするくらいかな」

そう言うと萩本さんはもう一つ、月のリズムを使った農作業についてお話してくださいました。

肥料を適正値に収めるための月のリズム
植物にはふたつの生長があるといいます。ひとつは生殖生長です。これは満月の時におこります。植物は生殖生長において子孫を増やそうとして、実をつけます。だからこの時に撒いた種は発芽しやすいのです。

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先月の満月時に種が撒かれ、芽が出たほうれん草


もうひとつは栄養生長です。これは新月の時におこります。栄養生長において植物は体をつくろうとして、栄養素を一生懸命吸い上げようとします。したがってこの時に定植をすると根の活着(かっちゃく)がよくなります。活着とは、挿し木・接ぎ木・移植などした植物が、根づいて生長しはじめることです。

野菜作りのポイントは、「根がしっかり張ること」。根は細かい毛細血管のようなもので、これがたくさんあるということは、ごはんを食べる口がたくさんあるのと同じことなのです。もし肥料や水がなければ植物は一生懸命に根をはって、少量の栄養素や水分を吸い取ろうとします。反対に肥料の与えすぎは植物が生長しようとする努力を阻みます。栄養や水の与えすぎは植物をダメにするとは、このような理由からです。

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土中の窒素分を上手に調整すると、生で食べても甘いほうれん草が出来上がる


さらに野菜作りの重要なポイントとして土づくりがあげられます。毎年の耕作によって、畑には肥料の残渣(ざんさ)が残ります。本来ならばその残り分を差し引いて、肥料を撒かなければなりません。これを考慮しないと、土が窒素過多になり、その土から出来上がる野菜も苦くなってしまうのです。さらにこの作物に吸収されなかった窒素分(硝酸性窒素)を人が多量に摂取した場合、一部が体内で亜硝酸態窒素として吸収されると、酸欠状態や発がん性の物質に変化してしまうとも言われています。

したがって、たとえ有機肥料だからといってたくさん肥料を入れてしまうと、土壌が窒素過多になってしまうことから、肥料の量も土の状況をみて調節する必要があるのです。萩本さんはおっしゃいます。

「農薬は売り物にする以上はある程度は必要。でもその量をいかにおさえるかなんだよ。それが月のリズムに関係してくる」

月と農業に興味ある若者よ来たれ
萩本さんはこのような自然農法に目覚めてくる若い人たちをこれからは育てたい、とはなします。

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夜が来れば、どこにだって、誰にだって、ほとんど見ることができる月。あなたももし、ベランダに咲く花や、野菜などを庭で育てる環境があるのなら、「月の満ち欠けのリズム」を生かして育てて記録をつけてみてはいかがでしょうか。ところで11月は21日の深夜、22日の午前2時過ぎに、満月の瞬間が訪れます。そしてこの月が次の新月を迎えるのは12月の6日の午前3時になります。毎日の月の満ち欠けは、当ブログの右サイドバーで確認できます。

こちらは の記事です。
農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。

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