心癒される北信濃の「土びな」たち

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3月にもなると、いつもの町が華やいだ雰囲気に包まれる気がいたします。それは以前より一段と暖かくなった日差しと共に、いたる所で飾られるお雛さまを目にするからでしょうか。そんな春の訪れを告げるお雛さまのなかに、県内でもちょっと珍しい素朴な味わいが魅力の「土びな」と呼ばれる土人形があります。この土人形が作られているのは県北部の中野市で、毎年3月31日〜4月1日には「中野土びな市」が開かれ、県内外から訪れる大勢の土びなファンで賑わうのです。


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庶民に愛され続けてきた土人形
土人形は、その土地に暮らす人々の信仰や風習などと深く結びつき、庶民に愛されてきました。江戸時代後期には全国に150箇所もの産地があったようです。なかでも京都・伏見稲荷大社参詣のお土産として作られてきた伏見人形は日本最古で、日本各地の土人形の原型ともいわれています。  その伏見人形はここ中野市において「中野人形」として奈良家が流れを汲み、大黒様や干支千人などの縁起物や風俗物などが多く作られています。

一方、ここ中野市にはもうひとつ、愛知・三河系の流れを汲む「立ヶ花の土びな」と呼ばれる土人形があり、西原家がその伝統を受け継いでいます。
何とも目にも鮮やかな人形たちは、静御前に政岡、八重垣姫、そして曽我五郎の武者姿など、立ヶ花の土人形は歌舞伎や歴史人物などを題材としたものが多いのが特徴。この三河系の人形を中野市に伝えたのは、斉藤梅三郎という三河の鬼瓦職人です。
三河は三州瓦の産地として知られ、瓦はもちろん土人形にも使われる良質の粘土が豊富にあった土地です。ここ中野市の立ヶ花も粘土質の土壌に恵まれた土地であり、そんな土壌が引き合わせたのでしょうか、当時立ヶ花で瓦の製造をしていた西原己之作のもとに梅三郎がやってきて、冬場瓦が焼けない時期の副業として土人形づくりを教えたと伝えられています。これが中野市立ヶ花の土人形の始まりとなりました。梅三郎は歌舞伎の造詣も深く、余技として土人形作者のために数々の歌舞伎人形の型を提供したといわれています。

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再興され、よみがえった「中野土びな」
ところがこの人形づくりも太平洋戦争を機に製造は中止となり、その後戦後になっても人形づくりはすぐには行われませんでした。しかし昭和46年、土人形を懐かしい思いで待ち望む周りの人たちからの盛り立てをうけた西原袈裟慶によって、見事立ヶ花の土びなが復活を遂げたのでした。そして現在、4代目の故西原邦男氏の奥様・久美江さんが唯一、この立ヶ花の土びなをつくり伝統を守っています。

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現在でも50種類ほどの人形の型があり、それぞれの人形が持つストーリーを想いながら人形づくりを行っている久美江さんですが、本来はもっと多くの型があったのだそうです。残念なことに昭和34年の千曲川の洪水によって、多くの型が失われてしまったのだといいます。

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この人形づくりとは何とも時間のかかるものでした。まず夏に畑の粘土を取ってひと冬寝かせ、翌年の夏、その粘土を練り型に詰めます。そして陽気のいい時期に干して乾燥させておいたものを、風のない時に素焼きをし、一晩置いて窯から出してようやく型が完成します。また色付けにも多くの時間が費やされます。色が滲まないよう、一色ずつの色が乾いてからまた別の色を塗っていく作業には、色使いの鮮やかな人形の場合、2ヶ月も費やすこともあるのだとか。
ちなみに、くるりと人形の後ろを見てみれば、肩より下は真っ白な状態でした。これは塗料が高価で裏側まで塗りきれなかった当時の名残だということです。

年に1度の即売会で、土びなを手に入れよう
久美江さんが作った土びな、そして奈良家が作る土びなは、3月31日に中野市で展示即売会が行われます。また全国の土びなを集めた日本唯一の即売市も3月31日〜4月1日に行われます。さらに3月1日〜4月1日まで中野市では「まちかど土びな展」として、中野市街地のおよそ80店舗の店先に、各店舗所有の土びなが飾られます。期間中は、この土びなにより親しんでもらおうと、絵付け体験の出来るところが市内いくつか設けられるとのことです。

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次々と新しい玩具が登場する現代社会にあって、全国的にも伝統を受け継ぐ土人形の作り手は減少しているのが実情です。そんな中で、昔の人が大切にしてきた手作りの味わいが魅力の土人形は、私たちの心を癒してくれる不思議な暖かみを感じさせる貴重な存在となっています。

参考:
中野ひな市公式ホームーページ

日本土人形資料館
住 所:長野県中野市大字中野1150番地(東山公園内)
電 話:0269−26−0730
休館日:毎週木曜日、年末年始

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