島崎藤村と小諸をめぐる小さな旅

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突然ですが問題です。
詩人・小説家・教師、木曽・小諸・千曲川......、と言えば誰でしょう?
......
答えは、明治の文豪「島崎藤村(しまざき とうそん)」です。
「すぐ分かったよ」というあなた、さすが文学通・信州通ですね☆
「藤村と小諸って?」というあなたもご心配なく! 今回は、昨年小諸宿400年を迎え、今年(2013年)5月11日より島崎藤村原作の映画「家」(ロケ地:県東部小諸市・佐久市)の公開で盛り上がっている小諸市を訪ね、「小諸市立藤村記念館」の川原田雅夫館長にいろいろなお話を伺ってきました。


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北国街道 商家の町並み

藤村が青年時代を過ごした小諸
浅間山の麓、中央をゆったりと千曲川が流れる小諸市は、県東部に位置する高原都市です。小諸城や北国街道を中心に交通の要所として栄え、明治時代には重要な商業都市として発展した歴史を持ち、往時の佇まいが残る風情ある町並みが魅力です。

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懐古園 三の門

しなの鉄道「小諸駅」を降りて連絡通路を渡ると、もうそこは、小諸城址懐古園入口。駅からわずか徒歩3分程のところにあります。新緑の園内を進むと、樹齢500年という一本の大きな欅に圧倒されます。そしてその奥、木漏れ日がきらめく中に瀟洒な佇まいの建物が。そう「藤村記念館」です。

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明治32(1899)年、東京での学生時代の恩師であった木村熊二氏(小諸義塾塾長)の勧めにより、小諸義塾の英語・国語教師として赴任したのは、藤村27歳(数えで28歳)の頃。既に詩人として泉鏡花らとともに雑誌に載るような有名人であった藤村が、なぜ小諸へ来たのでしょうか。
「それまでロマン主義で高らかに恋愛を語り、文学界の仲間との刺激もあった。それらを捨てて田舎(藤村曰く「山の上」)に来たのには、創作上の悩みとともに、もっと現実を考えたかったからでは? 家族・恋・漂泊の想い、といった青年らしい悩みもあったのでしょう」と語るのは、川原田館長。

山・土・農が導いた創作への意志
「私立小諸義塾は、自由教育で広遠な理想の人物を育てることを旨とし、アメリカ留学経験のある木村塾長はじめ、後の東京理科大創設者の一人である鮫島晋(さめじま すすむ)が物理・数学を教えるなど、個性あふれる教師陣がたくさんいました。20130522toson08.jpg藤村は同僚と懐古園内でテニスや弓道をしたり、本丸跡から千曲川を眺めたりしていたようですね。山・土・農に強い関心を持ち、ひたすら歩いたり、いろいろな所へ旅(取材旅行)をしていました。初めの頃こそ、『山の上』『田舎』『凍える程寒い』と言っていた藤村が、後に『一生忘れることはできない』『山の上から受けた感化』が作品から感じられるだろう、と語っていたことからも、小諸・信州で様々な着想を得たことが伺えます」

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藤村は、ここでの6年余の間に「雲」「千曲川のスケッチ」「旧主人」などが生まれ、超大作「破戒」も起稿します。川原田館長のお話しから、小諸は、詩人から小説家として、藤村が大きな転機を迎えた地であったことを学びました。

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藤村作詞の「惜別の歌」歌碑

人間観察は町のめし屋で?
また藤村は、この地で結婚し娘も生まれます。馬場裏通りには、藤村宅跡の「藤村旧栖地」石碑や、藤村や奥さんも利用していた「藤村の井戸」が今も残ります。

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藤村旧栖の地(左)と藤村の井戸

ここは北国街道沿いの商家が軒を連ねる本町に近く、商人や職人の多い町でもありました。藤村は真面目で物静かな性格で、お酒はほどほど、あまり強くないほうでしたが、駅近くの「一ぜんめし御休處 揚羽屋」に頻繁に寄っていたそうです。そして、常連となり、店の看板を書くよう頼まれるほどになったのです。

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「一ぜんめし御休處 揚羽屋」。取材時は残念ながらお休み

「できたての豆腐をほうばりながら、仕事終わりの町人・職人・農民の様子や会話などを見聞きし、人間観察をしていたのでは?」と川原田館長。藤村は、「教えつつ学ぶ」心持ちでいたことを「千曲川のスケッチ」にも綴っています。

では、「藤村の好み・嗜好は?」と川原田館長に尋ねたところ、「タバコです。『敷島』という銘柄を一日10箱も吸っていたとか。少し吸っては消してしまうけどね」との答えでした。藤村記念館では、タバコ盆など愛用の品を見ることができます。

信濃路の雄大な自然美に触れる
館内を出て、藤村が歩いたという懐古園を散策してみました。園内のはずれには藤村直筆の「千曲川旅情のうた」詩碑と千曲川を望む展望台があります。信濃路の豊かな自然と思い出、そして旅人としての自身を詠んだ藤村。ここでは、ゆったりとした千曲川の流れのようにのんびり過ごすことができました。

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「千曲川旅情のうた」詩碑(藤村自筆)

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展望台より眺める千曲川

最後に、川原田館長のお話に出てきた本丸跡へ向かいましょう。苔むした石垣と今は盛りの美しいつつじ小路を抜けて少し急な石段を登ります。今は木が覆い茂り、下に流れる千曲川を望むことはできませんが、しばし天高い空を仰ぎ見ると、静寂が心地よく感じられました。

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今回は、小諸と島崎藤村をめぐる小さな旅をお届けしました。これからの季節は高原の風と澄んだ青空が心地よい小諸。信濃路の雄大な自然と藤村の想像力が共鳴した街道の町で、すてきな時間を過ごしてみませんか。

◇関連スポット
20130522toson13.jpg小諸城址懐古園:小諸城は、平安時代以降、様々な武将を経て江戸時代の城主、仙石秀久の代で完成。全国的にも珍しい城下町より低い穴城であった。明治13(1880)年に懐古神社を祀り、「懐古園」と呼ばれる公園として整備された。園内には、今回訪れた藤村記念館のほかに、国指定重要文化財の三の門をはじめ、小諸義塾記念館、小山敬三美術館があり、歴史と文化に触れることができる。春にはソメイヨシノなど約300本の桜と希少品種の「小諸八重紅枝垂桜」、秋には欅や公孫樹(イチョウ)の紅葉と、四季折々にその姿を変えながら訪れる人々を静かに迎えてくれる。

20130522toson15.jpg小諸市立藤村記念館:藤村の小諸時代(明治32〜38年)を中心とした直筆原稿・作品・書・遺品などが多数展示されている。


◇周辺の見どころ
20130522toson16.jpg小諸市動物園:懐古園内にある大正15(1926)年開園の県下最古の動物園。クマやライオンの他に県内では珍しいイグアナやご長寿インコもいる本格派。家族で楽しめる。


20130522toson14.jpg大手門:401年前、藩主仙石秀久が築造した小諸城の正門。1階の敵の侵入を防ぐ強固な造りに対して、2階は高度な居住形式・畳で小諸義塾教室でもあるという珍しい特徴を持つ。近くには小諸宿本陣主屋や旧本陣問屋場など歴史的建造物もあり、当時の風景を残す。

一ぜんめし御休處 揚羽屋:藤村もよく通っていた店。昨年夏リニューアルされたが当時の雰囲気は今も残る。一ぜんめし定食(8品付1,500円)、ソースかつ丼も有名。

ほんまち町屋館:北国街道沿いの商家の町並み通りにある観光案内所。もとは味噌・醤油業の商家。

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停車場ガーデン:しなの鉄道「小諸駅」脇、色とりどりの季節の草花と地元食材中心の食事が楽しめるガーデンカフェ。

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◇関連リンク
小諸市
小諸市観光協会

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